集団災害時における一般医の役割

〜 Mass-gathering medicine 〜

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8.Q&A ここが知りたい わからない

(2)放射線物質一般、放射線テロに用いられる兵器


Q:放射性物質とは何ですか?

 放射性物質とは、放射線を出す物質です。放射性物質を電球とすると、放射線は光線であると言えます。この光線を出す能力あるいは性質を放射能と言います。

 従って、放射線に関係するテロが発生した場合も、患者が放射線のみを浴びた外部被曝だったのか、放射性物質により汚染されたのかで対応は異なります。

 汚染には、放射性物質が体表面に付着する体表面汚染、放射性物質の体内への取り込みによる内部被曝があります。

 外部被曝は、γ(ガンマ)線やX線によるものでは、患者は放射線を出す能力、放射能を持たず、被曝による症状のみが問題となります。

 中性子線によるものでは、ナトリウム等の体内の原子が放射化されます。廃棄物の管理が必要になりますが、放射化した患者からの放射線は、医療従事者に影響を及ぼす量ではありません。また、汚染を伴う患者では、除染、二次汚染防止のための防護、廃棄物の管理が必要になります。

Q:放射線は、人にどのような影響を及ぼすのですか?

 放射線の人体影響には、被曝後早期に現れる急性放射線症や放射線熱傷等の急性障害と、数年以降に現れる晩発影響があります。被曝後数時間から数週間に起こる臨床症状の総称を急性放射線症と言い、その病態は多くの組織や臓器の複合障害と位置づけられています。一般に急性放射線症は、γ(ガンマ)線の場合約1Gyの線量を全身に被曝すると起きるとされています。被曝線量に依存して現れてくる臨床症状から血液・骨髄障害、消化管障害、循環器障害、中枢神経障害の四つに分けられます。

 また、急性放射線症は時間的経過から前駆期、潜伏期、発症期、回復期もしくは死亡に分けられます。

 前駆期は被曝後数時間以内に現れます。食欲低下・嘔気・嘔吐・下痢が主な症状です。これらの症状は線量が高いほど症状が重く、また現れるまでの時間が短くなります。またこの症状が、大まかな被曝線量推定にも役立ちます。

 被曝後、数年から数十年経って現れる影響を晩発影響と言います。主なものとしては、白血病や固形癌等にかかるリスクが向上することがあげられます。0.05〜0.1Gyの被曝により、線量に応じて癌のリスクが上昇すると言われています。

Q:放射線を用いたテロには、どのようなものがあるのですか?

 Mass−gatheringで用いられる放射線を用いた兵器としては、核兵器とRadiation Dispersal Weaponがあげられます。

 核兵器とは核爆発を利用した兵器で、爆風による外傷、熱線による熱傷、放射線による急性放射線障害、晩発影響を引き起こします。原爆のエネルギーは、爆風が50%、熱線に35%、放射線に15%で、被害もこれに応じると考えられます。

 核兵器は、非常に高度な科学技術が必要なため、テロにおいては、容易には用いられないと考えられています。

 Radiation Dispersal Weaponとは、核爆発を伴わない放射性物質の散布により被害を与える兵器です。

 医療用線源、工場での線源、放射性廃棄物等のアクセスしやすい資源から、比較的低い技術で作成することができるため、テロで用いられる可能性が高いものとされています。放射性物質の散布により被災者は、放射線障害、汚染による被害に加え、精神的ダメージを被ります。


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