長岡市医師会たより No.288 2004.3

このページは、実際の会報紙面をOCRで読み込んで作成しています。 誤読み込みの見落としがあるかも知れませんが、ご了承ください。

もくじ
 表紙絵 「早春の竹之高地」      丸岡  稔(丸岡医院)
 「救命処置のグローバルスタンダード」 内藤万砂文(長岡赤十字病院)
 「「感染性廃棄物安全処理講座」受講記」西村 義孝(長岡西病院)
 「あさつきと雛の膳」         郡司 哲己(長岡中央綜合病院)

早春の竹之高地   丸岡 稔(丸岡医院)

救命処置のグローバルスタンダード〜普及してきたACLS  内藤万砂文(長岡赤十字病院)  

 さまざまな分野でグローバルスタンダードが叫ばれる時代となりましたが、救急医療の世界も例外ではありません。AHA(アメリカ心臓協会)のガイドライン2000に基づく救命処置が全世界に普及し、我が国でも標準化されるようになってきました。ずいぶん昔になりますが私が医者になったばかりのころ心肺蘇生として教えられたものに、メイロンの投与とボスミンの心臓内注入がありました。いま国際標準ではこれらは有害とされています。メイロンを心肺停止時のアシドーシス補正の目的で投与することの有効性はclassIII、すなわち「危険であり、行うべきではない」との評価です。当地で開催されたワールドカップの際に外国の方が心肺停止で受診されたと仮定します。「メイロンを使用したから蘇生できなかったのだ」と訴えられかねないのです。またボスミンの心臓内投与も気胸や心タンボナーゼの合併症のほうが問題となります。気管挿管されているでしょうから、数倍量のボスミンを気管内に投与するという方法もあります。カテラン針による心腔内穿刺を目の当たりにした家族から「苦しむ姿をみるのが辛かったので、とどめを刺していただき有り難うございました」と感謝されたという笑えない話もあるようです。

 心肺停止は救急外来や病室でおこるものであって、自分には関係ないとお考えの先生もおられると思います。千葉県の船橋市では医院の待合室での心肺停止が年間3名発生しています。長岡市でも歯科医院の階段を上りきったところで心肺停止となった方がおられました。心肺停止に直面したらどうされますか? こういう反応の先生が多いのではないでしょうか。「心肺停止か! 20年ぶりだな。どうするんだっけ? そうそうABCだった。気道を確保して、人工呼吸をして、心マッサージをすればいいんだ」。まさにその通りです。「おれもまんざらでも……」と喜ぶのは少しお待ち下さい。街をうろついている高校を卒業したばかりの若者に同じ質問をしてみて下さい。ほぼ100%の確率で「気道を確保して、……」という答えが帰ってきます。なぜ若者が知っているのでしょう? 自動車学校で習ったばかりなのです。このABCは道具のない現場で行う一次救命処置(BLS:Basic Life Support)と呼ばれるものです。医療関係者としては若者と同じレベルでは困ります。では次に何をしましょうか? 心電図をつけてみると心室細動です。最優先にやることは何でしょうか? 気管挿管でしょうか、点滴路を確保しての薬剤投与でしょうか。正解は除細動です。まずは200ジュールからです。除細動が1分遅れる毎に社会復帰率が7〜10%低下すると言われています。

 このように医療関係者が器具を用いて行うのが二次救命処置(ACLS:Advanced Cardiovascular Life Support)で、これを実践的に習得する教育プログラムがACLSコースです。気管挿管をどうする? 心電図診断をどうする? 薬剤は何を? 除柵動は何ジュールで何回? といったような国際標準を、ガイドライン000にもとづいて勉強します。昨年、長岡でも中越ACLSコースが開催されました。これは新潟県医師会のバックアップで指導者育成を目的に行われたもので、医師、看護師、救急救命士の方に受講してもらいました。最近のACLSをとりまく環境の変化にはめざましいものがあります。2003年4月には救急隊への教育、指示、検証体制(メディカルコントロール体制)が整った地域に限り、救急救命士による「指示なし除細動」が許可されました。長岡市でも行われております。メディカルコントロールに関わる医師や救急救命士にACLSコース受講を義務づけている地域もあり、我々も第一歩を踏み出しました。またアメリカ合衆国では従来より人が集まる場所に除細動器が多数設置され、講習を受ければ使用が可能でした。あるカジノで心室細動をおこした男性に対して警備員が除細動をかけ蘇生させた一部始終をおさめた監視カメラ映像は有名です。日本でも旅客機の客室乗務員に緊急避難的に除細動が許可されました。そして今、一般市民にも開放する方向で検討が始まっております。また日本医師会も積極的な姿勢を示し始めました。2004年3月より「ACLS研修は会員の生涯教育」と位置づけました。主な対象者を「常時、救急医療に従事しない医師」としており、救命処置への並々ならぬ意気込みが感じられます。

 当地区も遅れをとってはいられません。インストラクター育成やACLS用ダミー人形の手配も目途がたち、地域開催が可能な段階となりました。近隣の病院の先生や看護師、救急救命士の方々のお力を借りて定期的にコースを開催していきたいと考えております。多数の先生方に受講いただくことで、地域の救急医療レベルが大いに向上することは間違いありません。医師会の会員の皆様のご参加をお待ち申し上げております。

 

  目次に戻る


「感染性廃棄物安全処理講座」受講記  西村義孝(長岡西病院)

 はじめに

 昨年3月から表題の日本医師会主催の講座(第一回)を受講し2月で終了する。

 その概要を簡単に述べご参考に供したいと思う。また後段にその際知り得たことについての感想を少し述べる。折角だから詳しく書いてくれと言われても、資料だけでも広辞苑の厚さを越えるのでその講座資料を医師会図書室で見て頂けるようにお願いをした。

 講座の概要

 講座の形式は月1回送付される資料の学習、練習問題の解答提出、年3回の日医における講習会出席である。費用は八万四千円。定員五百名ほぼ達成か。受講者の構成比は病院廃棄物担当者、廃棄物処理業者、看護師、医師の順であろう。

 この講座は浜松医大松島肇教授を中心として各方面(環境・看護学・公衆衛生・廃棄物処理)の研究者によって指導され、テキストは「総論」3冊、「各現場における廃棄マニュアル」7冊、「処理業者選択のポイント」1冊、「講習会用講義資料」3冊と量・質ともに相当なものである。現在求められる最良の講座であろう。廃棄物の分類処理法を細かく知ることが出来た。しかしこの講座を通して私は廃棄物処理の難しいことを知り、長岡地区からも多くの医療機関管理者、廃棄担当者の受講をお奨めしたい。

 感想

 私は講習会の最初に紹介された次の2枚のスライドから医療側、業者側ともに危機感を持っていると感じた。それは、(1)平成15年の年始めに某県某市医師会で医師35、医療法人2がマニフェスト(産業廃棄物管理票)交付違反で書類送検された。(2)我が国で針刺し事故からのエイズ感染が報告された。

 また最終講習会の結論ともいうべきものは、(1)法律は廃棄物処理の実態を後追いしている。(2)一番の対策は良い業者を選ぶことである。(3)研修病院は研修医に保険点数を教える前に針の捨て方を教えよ。廃棄物梱包から針が突き出ただけで病院の信用は失墜する。ということであった。考えさせられる事柄ばかりである。

 次に私が驚きを持ってメモしたことを少し紹介しておきたい。(1)廃棄物処理法施行によって医療機関は併せて廃棄物排出業者となった。(2)医療機関は感染性廃棄物自己処理の権限もあるが環境基準の厳しい現在自己処理は困難である(ダイオキシンなどから)。全てを廃棄業者に委託せざるをえない。(3)病院が委託した廃棄物が不法投棄され、業者が倒産した場合、その廃棄物は医療機関が回収撤去しなければならない。(4)医療廃棄物の定義は医療機関などにおける医療行為などに伴って発生する廃棄物である。それで法規上、在宅医療廃棄物という語はない。在宅(一呼吸いれて)医療廃棄物という名の一般廃棄物である。感染性の注射針なども厳重な梱包をして滅菌のために燃える物(壊れ物でなく)として捨てることが望まれている。市町村・業者・近隣の人と操め事なしに引き取ってもらうよう調整出来なければ、在宅診療の廃棄物は診療側、インシュリン自己注射セットは保険薬局が処理することになる。(5)医療廃棄物処理費は健康保険で賄われることはない。廃棄物の量(容積も含めて)は再使用、リサイクルにもつとめてできるだけ減らすよう努力しなければならぬと教えられた。(6)医療機関からか家庭からかを問わず廃棄物の梱包から注射針が飛び出ていて業者従業員を刺すようなことがあれば大変な社会問題となる。

 おわりに

 我々は、自ら出す「ゴミ」が全て汚いと思われる「感染性廃棄物排出業者」の自覚のもとで対処せざるを得ないことを知った。そもそも廃棄物関連の法律は大量の建築廃材等の不法投棄を念頭に置いて成立したと聞くが、廃棄物全体の量としてはごく僅かの 「医師会」もついでに「ゼネコン」と並べて廃棄物排出業者とされているようである。知らぬ間に二足の草鞋を履かされたのならば、三足目の草鞋を自ら求めて「医師会廃棄物処理共同組合」をつくるアイデアもあり得るかとも思うが、やはり良い業者と一体となって医療を続けるほかはないようである。たかがゴミ、されどゴミ、うっかり捨てた針1本で医療の信用が失われぬように自戒したい。

 

目次に戻る

あさつきと雛の膳   郡司哲己(長岡中央綜合病院)

 「あしたはお天気は午後から崩れるんですってよ。」と家人。「じや早めに出発で、朝ご飯はおむすびをこしらえて、車で食べよう。お昼は村上で、はらこ飯か鮭わっば飯がいいね。」などと、わたしの旅プランはその日の食事がまず組み立ての柱となりますようで。三月に入り、家人から要望のあった村上の雛人形を見学する町屋巡りに出かけました。

 朝から晴天の休日です。新潟を過ぎると高速道路が中条町まで延びており、驚きました。長岡から中之島で高速道路に入り、一時間あまりで終点。目的地の村上まではさらに三十分。片道は二時間でした。

 にもかかわらず村上到着時には、春の雷と雨に大歓迎されました。雨宿りがてら、まず祭の山車をおしゃぎり会館で見学。雛人形展も開催中でした。そこで村上の各地域の特色ある雛祭のご馳走の展示もありました。わたしは「花より団子」派ですから、雛人形もさておき、この郷土伝統の行事食、雛の膳にも興味いっぱいでデジカメ撮影。

 (1)瀬波地区はあられ、新草のあんころ餅、干しだら

 (2)山辺里地区はあられ、あさつき、たにし、菱餅、甘酒

 (3)岩舟地区はあられ、あさつき、くわい、菱餅、甘酒、鯛菓子

 (4)上海府地区はあられ、あさつき、菱餅、甘酒、にしん、にしめ

 (5)村上地区はあられ、あさつき、干しだら、はまぐり、たにし、菱餅、甘酒

 (6)村上本町地区はあさつき、ふきのとう、干しだら、菱餅、甘酒、五目ずし。

 「どうしてこんなお膳にあさつきなんかあるんだろう?」 と家人は不思議がります。あさつきは言うに及ばず、ネギそのものも大嫌いなひとですから、その疑問はもっともです。

 ところで北前船の交易等で京文化の影響をうけた伝統の濃く残る城下町の村上。さてクイズです。前記のさまざまなお雛祭のご馳走で、全国共通の献立といえばなんでしょう。

 たぶん答えは、あられ、甘酒、あさつき。地域性のあるのは干し鱈。

 あさつきは意外でしょうか? 歳時記には、胡葱の若い葉茎は春先とくに美味で季感あふれる緑として食卓に供され、雛祭に貝類と和えた「胡葱なます」が伝統的とあります。

 数軒を訪ねて豪華かつ古い雛人形を見せていただいたあと、町屋のある魚屋さんで「姫御前」なる弁当でお昼にしました。店の奥の立派な仏壇のあるお宅の座敷にあげてくださり、お茶と漬け物付でゆっくりと食しました。このお弁当、鮭のはらこたっぷりで、生たこと鮪添え。さいわいにあさつきは散らしてありません。足が出ぬか心配なくらいのお代でしたので、気の弱い夫婦ですから(?)帰り際にお店で夕食のお買い物をすることに。…うーむ、敵の術中にはまった、とも。でも買って帰ったアイナメとアラのお刺身も岩海苔もおいしくて大満足でした。

 村上茶の老舗Qでは雛のお座敷で茶席が催され、作法なしとのことで安心して参加。春着の娘さんたちと女主人が和菓子とお薄を運んでくれました。家人は表千家ですが、わたしは不作法。

「へえ、この雛の絵のお茶碗、おもしろいね。」と飲み終えたお茶碗を上へかざして、「だめよ。」とたしなめられました。「あっ、そうだった。背を丸めていじましく、のぞき込むように拝見するんだったね。」お作法は嫌いですが、お茶は好きなので老舗らしからぬネーミングの「がぶ飲み茶」なるおすすめ品の煎茶やほうじ茶、少しだけ玉露も仕入れておみやげにしました。

 

  目次に戻る