長岡市医師会たより No.418 2015.1


もくじ

 表紙絵 「霧氷の朝(千曲川)」 丸岡 稔(丸岡医院)
 「新年を迎えて」 会長 太田 裕(太田こどもクリニック)
 「新春を詠む
 「英語はおもしろい〜その38」 須藤寛人(長岡西病院)
 「蛍の瓦版〜その8」 理事 児玉伸子(こしじ医院)
 「巻末エッセイ〜マドリッド」 富樫賢一(長岡赤十字病院)



「霧氷の朝(千曲川)」 丸岡 稔(丸岡医院)


新年を迎えて  会長 太田 裕(太田こどもクリニック)

 明けましておめでとうございます。
 皆様には健やかに新春を迎えられたこととお慶び申し上げます。
 昨年の暮、安倍総理は政策の信任と長期安定政権を目指して衆議院を解散し、総選挙行いました。結果は自民党の圧勝に終わりました。医師会は前回の総選挙より候補者と政策協定を結び、積極的な支援を行ってきました。そして「国民医療を守る議員の会」が約人の国会議員に300よって作られ、医療への理解をさらに深めてきました。今回も同様に政策協定を行い、新潟県では協定を結んだ全ての議員の当選を果たしました。
 政府は1000兆を超える国の債務を尻目に、経済の安定的成長と国の発展を目指しています。そのためには増え続ける社会保障費を如何に減らすかが大きな課題となっています。いわゆる2025年問題つまり団塊の世代が後期高齢者となり、日本の高齢化のピークを迎える時期をいかに乗り切るかです。つまり医療、介護、年金をいかに抑えるかが政府の重要な目標となっています。昨年「医療介護総合確保推進法」が成立し、これにより持続可能な社会保障制度の確立が可能と政府は考えているようです。地域医療ビジョンの策定、病床機能報告制度、ICT活用によるレセプト情報、特定健診データベースの活用、都道府県別の医療費の支出目標の策定、地域包括ケアシステムなど様々な改革がなされようとしています。国民にとって真に役立つ改革であるかを見極め、少しでも良い方向へ向かえるよう努力してゆかねばなりません。
 さて長岡市医師会の昨年の状況についてですが、一昨年より準備を進めてまいりました胃がんのリスク検診(ABC検診)が昨年の5月より始まり、特に問題もなく順調に推移しております。年度の結果がまとまりましたら皆様にお示しし、更に良い検診となりますようご意見をいただきたいと思います。またこの検診は胃がんの撲滅をも視野に入れており、今年度より任意検診の年齢を20歳からに拡大し、また中学生での検診の導入も検討中です。
 次に在宅医療の推進についてですが、これは国が進めております地域包括ケアシステムの根幹をなす事業です。在宅医療は医師だけでは完結することができず多職種、特に訪問看護、後方支援病院、ケアマネ、介護など多くの支援の輪が必要です。この輪を構築するため行政とタイアップし、地域包括ケア推進協議会を立ち上げて昨年は3回、また他職種との勉強会を4回、在宅先進地域の柏市、掛川市、浜松市などの視察、小国、栃尾地区でのICT利用の実験、長岡市内にある12か所の訪問看護ステーションとの懇談会、在宅と認知症についてなど、できるだけの準備を行ってまいりました。医師会側のまとめ役として在宅医療連携協議会を立ち上げ、この会には7つの病院と各地域の医師に委員として参加していただいています。また長岡市と地方自治研究機構による大規模な在宅ケアシステム構築に向けた地域資源ニーズ調査が行われており、この活用も期待されます。今年一年で在宅医療の構築に向けた基礎の段階が終わるものと思います。どのような形がベストなのかはまだはっきりしませんが、試行錯誤を繰り返し、いわゆる使えるシステムにしてゆきたいと考えております。皆様のご協力よろしくお願いいたします。
 最後に、伝統ある長岡市医師会をこれまで以上に発展させ、社会により一層貢献する医師会としてゆく所存でございますので、会員の皆様のご支援、ご協力よろしくお願いいたします。
 皆様にとりまして美しい未年になりますことを祈念し、新年の挨拶とさせていただきます。

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新春を詠む

初春や 昭和も故郷も 遠くなり  荒井紫江(奥弘)

恙なく 米寿を迎え 初日の出  鳥羽嘉雄

寒空や ノーベル青(ブルー)の輝ける  十見定雄

星冴える 静かに響く音 去年今年  江部達夫

急患を申し送られ 去年今年  郡司哲己 (※元旦が仕事始め)

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英語はおもしろい〜その38   須藤寛人(長岡西病院)

engorged 充満した
 分娩が終了すると血中女性ホルモン濃度は急激に低下し、それまで高まっていたプロラクチンは乳腺に取り込まれるようになり、母乳が産生される。下垂体後葉より分泌されるオキシトシンの作用も加わり、初乳(colostrum)は1週間もすれば成乳となり、堰を切ったように流れ出る。3時間毎にお腹がすいて泣き出す赤子の声を聴くと、母親の胸が張ってくる。女性が母性を実感する聖なる時である。
 しかし、残念ながら、母乳を授乳できない、あるいは、与えてはいけない母親が少数ながらいるのは今も昔も変わらない。かつて、私が医師になりたての頃は、母乳を止めることは医学的にも大変困難であった。結局、「胸をきつくしめて、冷やして、決して飲ませない」くらいの方法しかなかった。これでは当然うまくいかないことが多く、両側乳房が母乳でパンパンとなり、度を超えると、バンバンとなり、表在静脈も怒張し、痛みも伴い、ガンガンとなってしまう人が珍しくなかった。このような時に使われる最も適切な英語は "engorged" である。
 engorge は福武英和辞典には載っていないが、三省堂カレッジクラウン英和辞典では、(1)「がつがつ食う(gorge)」、(2)(医学)「充血させる」とある。ライフサイエンス辞典では「充血した」の一語である。そこには、関連語として、congestive、hyperemia、injection があげられている。いずれの単語も、血流が多く、鬱血なり充血している状態を示す用語である。復習になるが、眼瞼結膜(conjunctiva)や口蓋垂(uvula)が真っ赤であれば、hyperemic とか injected と記述するが、この時の injected は「注射」ではない。日本の辞書には、"engorged"の適切な日本語訳が載っていないようだ。
 Merriam-Webster 大辞典で、engorge の語源は F.engorgier, to feed to repletion(満腹になるまで食べさせる) = devour(むさぼり食う), from en - en - + gorge(throat)とあり、「のど、食道」と深く関連した語であることがわかった。私のイメージからすると、羊や牛が草をたくさん食べて、のどを膨らませている状態を想像する。同辞典の第二の意味に "fill with the blood to the point of congestion" とあるので直訳すれば「血液で鬱血した」となろう。しかし、私が最初にあげた、乳房の engorge は「母乳で」バンバンであって、「血液で」ではないので、「充血した、鬱血した」より、「緊満した、充満した」の方がより良い和訳ではないであろうかということである。今回は、このあたりのちょっとした違いを調べてみたい。
 まず、共起表現の検索を行ってみよう。engorged には31の実例が示されているが、この数は、最多例文数が300例であることを勘案すると、やや少なめに感じる。血液と関係のあるものは、"engorged mesenteric vessels" と "only engorged veins upon hand elevation ……" の二例に過ぎなかった。tick(s)(ダニ)に関する例が、"engorged ticks" など、10例もあることが特徴的であったが、これらも血液と関係しているとみなされよう。血液以外で、「……で充満していた」"engorged with" という例は、"Luminal spaces became engorged with undigested materials." 、"Atherosclerosis is composed of macrophages that have become engorged with cholesterol." 、"the liver is engorged with cholesteryl esters"、"mice were engorged with neutral lipid" などであった。また、 "phagocyticaly engorged"、 "lipid-engorged" という表現法があり、"engorged macrophage"、 "…… several mucosal tissues appear engorged" なども血液とは無関係である。母乳との関係での例文は一例のみで、 "even if the breast at which it sucks is engorged with milk" と書かれていた。要すれば血液以外で満たされていても使用しうるということである。
 Engorgement はライフサイエンス辞典では「(血管の)怒張、充血」である。ここでも、再び「血管」だけでないことを、共起表現検索より示してみたい。31の実例文しか載っていないが、このうち12例がダニに関するものである。そして血管に関する例が "engorgement o fblood vessels"、 "e. of venous structures"、 "e. of iris vessels" の3例であった。血液以外の使用は "owing to the engorgement of hepatocytes with cholesterol and triglycerides"、 や "Two had abnormal engorgement and intense enlargement of the choroid plexus" などであった。
 ここで、"gorge" についてさらに調べてみると、研究社新英和中辞典には、gorge の名詞に、「のど」の他に(1)両側が絶壁になっている)「峡谷、山峡」、(2)(米)(川・通路などをふさぐ)「集積物」ex. "An ice gorge has blocked the shipping lane."(氷塊が航路をふさいでしまった)と出ていた。しかし、この辺までくると、私の類推分析力は限界である。
 大げさな言い方になるが、邪馬台国の卑弥呼の時代を遡ること500年も前に、ギリシャのソクラテスは神殿に隣接するアグラで哲学を説いていた。西洋言語の持つ意味の多様性、複雑性、そして正確性、厳密性は日本語を越えているのであろう。調べているうちに、gorgeous の元々の意味は、女性が「のど(gorge)に飾りをつけた」、から「きらびやか」に転じ、「豪華な、華美な、華麗な(splendid)」になり、さらに「みごとな、すてきな、すばらしい」と、広い意味で使われるようになったそうである。日本人はやたらと「ゴージャス」という英語を使うようであるが、Genius英和辞典には「主に女性が用いる用語である」と書かれてある。
 さてさて、engorged breast のことであるが、今日、医学が進み、ドパミン受容体刺激薬である薬剤名 Cabergoline を、分娩直後であれば1錠だけ飲めば、母乳分泌を完全にコントロールすることができる。大変良い時代になったものである。しかし、異常な breast engorgement を生ずる褥婦は、陥没乳頭や扁平乳頭で、乳管が乳頭で詰まってしまうような人に、依然、散見されるのである。病院、医院、市の保健指導の助産師さんたちは、褥婦が乳腺膿瘍などにならないように、専門的な見地から保健指導に当たっている。(続く)

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蛍の瓦版〜その8 理事 児玉伸子(こしじ医院)

1.平成26年度臨時総会(予算)
 長岡市医師会は、昨年の4月から新たな制度による一般社団法人へ移行しました。この移行に伴い、昨年度から会計も新たな公益法人会計基準に基づいて行っています。この新基準に沿って、平成27年度の事業計画と予算を報告するための臨時総会を、3月27日に長岡市医師会館に於いて開催します。
総会終了後には、新潟県医師会の顧問弁護士である三部正歳先生に、「医療過誤裁判の現場から〜訴訟にならないために気をつけたいこと」について御講演頂く予定です。
 長岡市医師会の管内では、現在裁判所で紛争中のケースはありませんが、毎年2件前後が県医師会医事紛争処理特別委員会のお世話になっています。アメリカのデーターでは、医学的見地からの正当性と医療過誤裁判になるか否かは関連がないそうです。また昨年の6月に成立した医療・介護総合推進法では、今年10月を目処に医療事故調査制度の運用開始が決まっています。現在はその運用規定について議論が行われていますが、開業医にとっても全く無関係ではありません。
 総会と講演会への皆様のご参加をお待ちしております。

2.長岡市の介護保険
表1は長岡市の介護保険特別会計算出決算額です。平成22年3月に旧川口町が合併しているためそれ以前の値は参考値です。毎年5%近く増加し、25年度は19年度に比べ概算で1.36倍となっています。これは、同じ期間の65歳以上の高齢者の増加(1.11倍)より大きい数字です。後期高齢者の増加幅が大きく、単身や高齢者だけの世帯が増えたことに加え、介護保険への認知が普及し利用が増加したためと推測されます。もう少し詳細な数字を瓦版で順次ご紹介する予定です。
 この4月には介護保険の改定が予定されており、介護報酬の%の引2.27き下げが決まっています。また、要支援者に対する介護予防事業は県から市町村へ移行されます。

【表1:長岡市の介護保険特別会計算出決算額】
平成19年度 183億7073万円
平成20年度 197億3279万円(前年比1.07)
平成21年度 209億5324万円(前年比1.06)
平成22年度 218億2876万円(前年比1.04)
平成23年度 226億4594万円(前年比1.04)
平成24年度 236億7607万円(前年比1.05)
平成25年度 250億1276万円(前年比1.06)

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巻末エッセイ〜マドリッド 富樫賢一(長岡赤十字病院)

 闘牛場は古代ローマの野外円形劇場と同じ構造で石造り。番長さんに引率されて入ると、中は真っ暗。外からわずかな光がさしこむだけ。電灯がない。暗い中で、もう一人の現地ガイド(スペイン人)が買ってきた入場券(指定席)を受け取る。番長さんは、この人はほとんど何もしない(日本語が話せない)のに、給料は俺より高いとこぼす。ただし法律でスペイン人の公認ガイドが一緒に居ないと日本人だけではガイドができないことになっている。
 さて次は、座布団を借りなければならない(番長さんの命令)。いかにも胡散臭いやつ(ほんとうは暗くてよく分らない)が商っている。列に並んで見ていると、日本人の客にはつり銭を払っていない。そこで、スペイン語で「二人分(ドス)」といったら、つり銭をもらえた。暗い中、狭い階段を上って行くとパッと明るくなって観覧席に出た。出口には係員が立っていて入場券をチェックし、座席まで案内してくれる。座席といっても、ローマのコロシアム同様、石の階段のようなもの。混んでくると足の置き場も無いほど狭い。しかも石なので尻が痛い。ここで、2ユーロで借りた座布団が役に立つ。
座席は場所によって値段が違う。闘牛は夕方5時から始まるが。その頃太陽が西に傾き、レドンデル(闘牛が行われる中央の円形広場)が半分かげってくる。日の当たる席をソル、日陰の席をソンブラといって、ソンブラの方が高い。闘牛士が仕留めの業をする時太陽を正視しないようにソンブラで戦うからで、そこの客は間近にそれを見ることができる。我々の席はその中間で、18.5ユーロ(約2500円)。
 ファンファーレが闘牛の開始を告げる。パソドブレ(闘牛行進曲)がながれ、馬に乗った儀杖兵を先頭に演技者が入場してくる。祭司(闘牛場のオーナー)の前まで進み挨拶が終わると、祭司は闘牛開始を宣言する。スタッフが引っ込んだ後、牛が出てくる。モノサビオ(助手)はカポーテ(ピンクの布)を振って牛を誘っては、塀で囲われた所に逃げ込む。牛はむなしく塀に体当たりを繰り返す。次に、ピカドール(槍士)が鎧を着た馬にまたがり登場して、牛に槍を突き立てる。さらに、バンデリーリョ(銛士)が銛のようなものを2本掲げて登場し、牛の両肩を刺す。ここまで牛を弱らせておいて、いよいよマタドール(闘牛士)の登場である。
 マタドールは3人いて、経験豊富な人、初心者、その中間といった順で登場する。まず、経験豊富なマタドールが出てきた。牛を仕留めるまでの間、ムレータ(赤の布)と剣を使って弱った牛相手に演技をする。マタドールのリードで牛が舞い、両者のリズムが一つになると良い演技だそうだ。それを15分位(制限時間がある)やり、最後に牛の両肩甲骨の間、わずか5cmの急所に剣を突き刺す。一発で仕留めるのが最高。ここには前もって印がつけてある。最初のマタドールは何度か失敗した後成功した。これで一幕目は終わり。新たな牛が出てきて又最初から始まる。素人が見た目には、二番手の初心者が一番上出来のようだった。最後の仕留めも何と一発で決め、やんやの喝采。番長さんの話だとファン並びに親戚の一団だそうだ。三番手が最悪。何度も何度も急所をはずし牛は悶えまわる。観客からは冷たい視線とブーイング。見かねて一番手のマタドールが出てきて仕留めた。もう闘牛の美学どころの話ではない。通常もう1クール(3幕)あるのだが、早々に退散した。番長さん曰く、「今日は牛が悪かった」。

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