長岡市医師会たより No.421 2015.4


もくじ

 表紙絵 「能生谷の春」 丸岡稔(丸岡医院)
 「曽我謙臣先生のこと」藤原正博(柏崎総合医療センター)
 「救命処置を学ぶ半日コースを受講して」 小林眞紀子(小林真紀子レディース・クリニック)
 「救命処置を学ぶ半日コースを受講して」 殷熙安(アイ内科クリニック)
 「救命処置を学ぶ半日コース受講記」 奥川敬祥(おくがわ小児クリニック)
 「英語はおもしろい〜その39」須藤寛人(長岡西病院)
 「蛍の瓦版〜その11」 理事 児玉伸子(こしじ医院)
 「巻末エッセイ〜山菜採り心得十二ヶ条」 江部達夫(江部医院)



「能生谷の春」 丸岡稔(丸岡医院)


曽我謙臣先生のこと  藤原正博(柏崎総合医療センター)

 4月2日の新潟日報夕刊で、「曽我謙臣さんの自宅が火事になり、焼け跡から一人の遺体が発見された。曽我さんとの連絡が取れず、遺体は曽我さんと思われる」という記事を見て、我が目を疑いました。1週間ほど前のある会合でたまたま曽我先生の話が出て、どうも最近体調が思わしくないようだということを聞き、心配していたところだったからです。
 その後遺体は曽我先生であることが確認され、7日にお通夜が営まれました。昔の仲間を中心に大勢の方がお集まりになりましたが、皆さん驚きを隠せない様子でした。
 曽我先生は昭和55年に秋田大学医学部を卒業され、新潟大学第一内科血液班に入局されました。昭和52年卒の私とは3年違いでした。暫く大学で一緒に仕事をしていましたが、曽我先生は昭和62年5月に長岡赤十字病院に赴任されました。
 そして平成元年5月、縁あって私も長岡赤十字病院に赴任、黒川和泉先生、曽我先生とともに3人で中越地域の血液疾患患者を一手に引き受けることになりました。
 忙しい毎日ではありましたが、当時はまだ少し余裕があり、仕事が終わると医局の研究室に内科医全員が集まって、一杯やりながらいろいろな話をし、情報交換・共有をしながら親交を図ることもありました。そんなとき、江部達夫先生が採ってきた山菜を曽我先生がてんぷらにしてみんなに振舞っていたことが、懐かしく思い出されます。
 曽我先生は子供の頃から好奇心旺盛で、いろいろなことに興味を示されたようですが、中でも自然に咲く花々や、夜空に輝く星に強く惹かれていたようです。私などとは違う曽我先生の繊細さは、そういったことで培われていったのでしょう。
 またご存知の方が多いと思いますが、写真はプロ級でした。
 長岡赤十字病院には「蒼柴」という院内広報誌がありますが、曽我先生は平成6年4月から長岡中央綜合病院に異動された平成14年までの8年間、編集長として関わられました。毎号の編集後記に、先生の思いが、凝縮された形で表現されています。淡々とした語り口ではありますが、その時々の出来事に対する鋭い洞察力を感じます。そして先生らしい優しさも垣間見えます。
 「最後の原稿」と題された蒼柴113号の「スコープ」にこんな一節があります。「先日、私が移ると聞いた患者さんが涙ながらに訴えました。『私は日赤病院に診てもらっているんじゃない。曽我先生に診てもらっているんだ』……『ありがとう』」曽我先生がいかに患者さんに信頼され、愛されたかが、よくわかりますね。
 平成9年7月に奥様を亡くされてからでしょうか、優しい笑顔に翳りが生じました。しかし周りで見ている私達にはどうしてあげることもできませんでした。曽我先生にとってはつらい日々だったに違いありません。
 平成14年5月に長岡中央綜合病院に移られてからはお目にかかる機会が減りました。平成17年7月には同院を退職されたと伺い、体調を心配しておりました。でもお元気になられて翌年6月には新潟県血液センター長岡出張所に勤務されるようになったことを聞き、安堵しておりました。
 平成21年には私も柏崎に移ったことから、曽我先生にお目にかかる機会はなくなりました。お元気でおられるものと思っていたところに突然の訃報、ただただ驚くばかりでした。
 お通夜の席でお寺様がおっしゃっていました。「人間はいつ死ぬかわからない。皆さんはまだ大丈夫と思っているかもしれないが、そうではないことを、曽我先生が身をもって教えてくれたのです。」確かにそうだと思います。人間はみんな死にますが、それがいつになるかは誰にもわかりません。だからこそ死を意識しながら毎日を大切に生きることが必要なのではないでしょうか。そのことを改めて教えてくれた曽我先生に、感謝の意を表したいと思います。ちょっととぼけたような表情で、軽く手をあげて、「ヨッ」と声をかけてくれた曽我先生の姿が目に浮かびます。先生、天国でまたお目にかかりましょう。
 心からご冥福をお祈り申し上げます。

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「救命処置を学ぶ半日コース」を受講して 小林眞紀子(小林真紀子レディース・クリニック)

 この度、長岡市医師会主催の「救急処置を学ぶ半日コース」に参加させていただきました。産婦人科医院を開院して26年になります。はじめの15年間は分娩の取り扱いをし、その後産科を止めて女性専門外来として再スタートし11年目になります。産科での救急医療のメインは出血との戦いであり、生死を分けるような恐ろしい思いも何度となく経験致しました。しかし幸いにもAEDを必要とするような症例には遭遇致しませんでした。実際に、もし使用しなくてはならない場面に直面したらどうしよう、との思いが常にありました。本日の講習会を受講させていただき、少々自信がついた気が致します。
 講習会の当日は佐伯牧彦先生の講義から始まりました。「コースの概要説明」と「ガイドラインG2010の重要なポイント」の解り易い説明、その後長岡市消防署救急救命士さんからの「救急蘇生法の手順」の具体的な説明、それからそれぞれのグループに分かれての実技開始です。私は他院(吉田病院)のスタッフの方2人とベテランのインストラクターの下で実技演習を行いました。救助者同志の連携の取り方、心臓マッサージ、人工呼吸、AEDの使い方の基本などしっかり確認できました。さらにその後、小児と成人の窒息の解除法なども学び、非常に有意義な講習会でした。ガイドライン2010に基づく一次救命処置アルゴリズムは世界共通であり、極めてシンプルであることも知りました。これからは新幹線の中などで救急処置を求められる状況に出会ったとしても、以前よりは自信をもって役立てるのではないかと思っております。このたびの講習会は私にとってとても有意義なものでした。最後に休日にも関わらずこの講習会を企画して下さいました皆様方に深く感謝いたします。本当にありがとうございました。

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「救命処置を学ぶ半日コース」を受講して 殷熙安(アイ内科クリニック)

 クリニックが駅ビル内にありましても、これまでAEDを使う場面に遭遇することなく、皆様のお力添えをいただきながら、開業して8年目となっています。12月に79才の男性が来院。気分不良を訴えられ、トイレに立ったところで意識がなくなり、看護師が呼びかけても応じないとのことで、傍らに行ったところ、脈も触れず、開院後初めて心肺蘇生を行いました。救急車の要請も初めてのことでした。毎年医師会から案内されていた「救命処置を学ぶ講習」のことは、気になっていましたが、「病院でも何度も経験しているし、数年後でもいいな」などと考えていました。しかし、今回の急変した患者さんのこともあり、スタッフに声をかけたところ、全員受講の希望がありました。事務スタッフの参加も可能とのことで、私と看護師3人と事務員2人の計6人での受講となりました。経験豊富なインストラクターの方々が、日常での様々な場面を想定するようにガイドしながら、心臓マッサージ、フェイスシールド(人工呼吸用マウスシート)やポケットマスクを用いての人工呼吸、AED使用のポイントの他、成人や小児の窒息の解除法などを指導して下さいました。大変内容の濃い、あっという間の3時間でした。講習の詳細な内容は、すでに参加された先生方から、“ぼん・じゅ〜る”H25年(bR97)、H26年(bS09)の各号にありますのでご覧下さい。
 開院以来、医師会の星さんや編集委員の児玉先生から、供ぼん・じゅ〜る僑への寄稿を勧められていましたが、敷居が高く逃げ回っていました。今回の参加で原稿依頼があるだろうと思い、スタッフにも受講レポートを書いてもらうよう頼んでおきました。誌面をとって申し訳ございませんが一部を紹介させていただきます。

1.事務員S(20代):実際に人工呼吸器、胸骨圧迫、AEDなどでの心肺蘇生法を体験させてもらいました。胸骨圧迫は5cm圧迫を30回続けなければいけないとのことで体力が必要で大変でした。腕をまっすぐに少し前方を見るとやり易いとコツを教えてもらい少し楽にできるようになりました。AEDは音声に従って操作するので使い方は簡単ですが、いざ街の中で「持ってきて下さい」と言われても設置場所がわからなければ意味がないと思います。公共の場に行った時は設置場所を把握しておくことが大切だと思いました。いろんな場面を想定して体験しましたが、流れはほぼ一緒で、まずは倒れていた人に声をかけ、大きな声で助けを呼ばなければいけないので、その勇気を持ちたいと思います。先日の医院の患者さんの時は、自分が受付に居たにも関わらず、何もすることができず看護師を呼びに行くという時間のロスを作ってしまいました。また同じようなことが起きたら今回の研修での経験を生かしてチームで助け合いながら1秒でも早く患者さんを助けてあげたいです。また、機会があれば参加したいと思いました。

2.事務員N(30代):今回は初のAEDを使っての救命練習でした。これまでにもこうした講習に参加したことはありますが、AEDの起動や使用は初めてです。席に配布された人工呼吸マスクすら見たことがありませんでした。全体の説明後、各班に指導員の方がつき教えて下さいます。こちらが事務員ということで「受付前で患者さんが倒れたら」、「スタッフが3人で対応するなら」というように、わかりやすい設定で練習を進めて下さいます。ただ、「呼吸の有無は10秒以内で判断」、「マッサージ中断は最小限に」と、とにかく時間との勝負ということがわかりました。人形相手とはいえ、気を抜く余裕は全くありません。3クールほどでうっすら汗ばんでくるし、胸部のマッサージをしている肘がカクンカクンと力が抜けてきてしまいます。帰宅後はすっかり肩痛、腰痛。今までの「こうした場面が起こらなければいいな」という考え方から、「万一こうした場面になったら」と、気持ちが変わりました。ご指導いただきありがとうございました。

3.看護師A:三人に一人のインストラクターがつき、実技しながら具体的に細かく指導して下さり、無意識にやっていたことを改めて見直せました。救命処置を初めて体験する事務さん達も、より具体的な場面設定や人形での練習で救命が身近に感じられたのではと思いました。クリニックでの急変は受付や待合いでも起こりうるため、医療事務も知識を持つことが、他の患者さんへの配慮、看護職員、救急隊の動きやすさにつながると思いました。事務職員の参加も許可いただき感謝しています。

4.看護師O:初めて救急蘇生法の訓練に参加しました。胸骨圧迫や人工呼吸など忘れていたことを体験できて良かったです。場面設定で、1人しかいない時には、心肺蘇生を慌ててしないで、携帯があれば救急車を呼ぶことで人集めをするなど、とっさには思いつかないことを教えてもらい勉強になりました。もしもの時は自信を持って行動できると思いました。

5.看護師K:10年以上前に講習を受けて以来、ここ数年運良く?心肺蘇生の患者さんに遭遇することなく過ごしてきましたが、先日、クリニックで心肺停止になった患者様の処置を行い、慌ててしまった経験をしました。今回の講習会はその直後のタイミングで案内があり、改めて勉強しなければと思い参加しました。講師の方々が、具体的な方法を教えて下さり、わかりやすく、私自身再確認できたことが多くありました。CPRでは口呼吸の息の強さや心臓マッサージの力の入れ具合など、実際に練習してみてコツがわかった気がします。また、AEDの操作方法では確認すべき点がいくつかあり、体験したからこそわかったことや多くの気づきがありました。講習内容を実践の場で生かせるように、繰り返しスタッフと訓練していかなければならないと感じました。最後の救急救命士の方々の実際の事故での対応方法(JPTEC:病院前外傷救護プログラム)も参考になりました。

 以上のように、私自身の勉強ばかりか、スタッフ教育の場にもなりました。長岡市内だけでなく近隣からも応援指導して下さった医療スタッフの方々、救急隊員、長岡市医師会の皆様に深く感謝いたします。

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救命処置を学ぶ半日コース受講記 奥川敬祥(おくがわ小児クリニック)

 3月8日(日)に開催された「救命処置を学ぶBLS(Basic Life Support)半日コース」に当院の看護師1名と共に参加してきました(於長岡赤十字看護専門学校)。以前のACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)1日コースと比べると現在のBLS半日コースは随分参加しやすくなったのではないかと思います。
 当日はあらかじめ3名ずつにグループ分けされ、インストラクターが1名つきます。当方のチームはインストラクターが長岡市消防署救急救命士の菅沼さんで、メンバーは私と当院看護師、長岡市健康課の方の3名でした。初めに佐伯牧彦先生から「コース概要説明」と「ガイドラインG2010の重要なポイント」のわかりやすい講義があり、続いて長岡市消防署救急救命士から「救急蘇生法の手順」の解説と実技デモ 1.胸骨圧迫 2.気道確保と人工呼吸 3.胸骨圧迫と人工呼吸 4.一人法CPR(Cardio Pulmonary Resuscitation)があります。その後グループごとにインストラクターの指導で実際に実技演習を行いました。続いて 5.バッグバルブマスクを用いた人工呼吸 6.AEDの使用方法 7.CPRとAED(Automated External Defibrillator)などの実技演習を行いました。10分間の休憩後、各人に設定されたシナリオのもと救命処置の演習を行いました。私は小児科医なので、赤ちゃん症例のシナリオでした。その後、8.窒息の解除(成人・乳児)の実技演習を行い、最後に消防署救急隊による JPTEC(Japan Pre-hospital Trauma Evaluation and Care)の説明と実演をもってコースは終了となりました。
 今回のコースは成人のBLSアルゴリズム〜G2010に基づいて行われました。

1.反応がない人を見かけた場合
 大声で叫び応援を呼び、緊急通報(119番)とAEDを依頼する。
2.呼吸を見る
 正常な呼吸がない場合心停止と判断。下顎呼吸など死戦期呼吸は心肺停止として扱う。
3.CPR開始
 1分間に100回以上の胸骨圧迫、30回に1度程度の割合で2回の人工呼吸(1クール)。胸骨圧迫は強く速く絶え間なく5cm以上の深さで圧迫。人工呼吸では、胸郭の動きに注意し、低換気とともに過換気にも注意する。1回500cc程度の換気量が目安。CPRの中断は10秒以内。およそ5クールでCPR術者を交代する。
4.AED装着
 心臓を挟む右鎖骨下部と左側腹部に電極パッドを貼る。音声指示に従い、全員が患者から手を離す。AED解析後、音声指示が「電気ショックの適応なし」ならCPR再開。心停止がVT、VFによるもので音声指示が「電気ショックの必要あり」ならショックを与え、ショック後はすぐにCPR再開。AEDの解析は2分毎に繰り返される。胸骨圧迫中断は最小限とする。正常呼吸が出現したなら心拍再開と判断。それでもAEDははずさずに、救急隊が到着するまで継続し転送する。G2010のCPRで特に強調されたことは、「胸骨圧迫を直ちに開始すること」で、下顎呼吸も含めて呼吸停止があれば心停止と判定して即CPRを開始すること。AEDによるショック後もすぐにCPRを再開するという点でした。

 本救命処置講習会は大変分かり易く、有意義なものでした。各医院のみなさまもスタッフと共に参加することをお勧めします。コース終盤には、各グループのチームワークもまとまり、お互いの連帯感も生まれて、和やかな雰囲気の中でコースはお開きとなりました。おわりに本プログラムを計画し、熱心にご指導いただいた医療スタッフ、長岡市消防署救急隊、長岡市医師会の皆様にこころから深謝し、御礼申し上げる次第です。

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英語はおもしろい〜その39 須藤寛人(長岡西病院)

rationale 理論的根拠
 今回は、回診、症例検討会、Journal club(抄読会)あるいは臨床研究発表会の時などに使われ、医学論文にも広く用いられる英語で、かつ、かなりインパクト感のある単語 "rationale" をとりあげてみたい。 rationale はライフサイエンス辞典では「理論的根拠、原理」と訳されており、福武書店の英和辞典では「文章用語」の注が付いているが、会話や、議論の中でも用いられる。Merriam-Webster 大辞典では(1)(意見、信条、行動、現象などに関しての)「"controlling principle"(根源を統御しているも)の説明」、(2)the underlingr eason「根幹理由」(筆者訳)である。研究社新中英和辞典では theoretical explanation、logical basis、fundamental reason などと表現されている。rationale の語源は L. rationalis rational の中性形とのこと。
 共起検索リストには最高の300例文が載せられている。慣用的な例文は "provide (provided、providing) a (the) rationale for ……"、「……に理論的根拠を与える」で112例と最も多かった。ex. "These results provide rationale for human clinical studies."、"Our data provide a rationale for the pharmacological control of ……" などである。rational に先行する形容詞をみると、"biological rationale"、"mechanistic r."、"molecular r."、"scientific r." などが多く用いられていた。"rationale for" で「……の根本的な理由」であり、ex. "There was no scientific rationale for the operation being performed." や "This review summarize the rationale for direct manipulation of ……" など、実に300例文のうち270例においてこのようであった。"rationale + 不定詞( to +動詞)" は10例と少ないが、"These findings provide a rationale to evaluate the use of ……" の例文を示したい。
 rationale の発音は表題で示したように、ラショナーレであるが、ラショネルでも良く、いずれにしてもアクセントは後半部にある。
 関連語についてみると、rational は、発音がラーショナルと大きく異なるが、(形)「合理的な」あるいは「理性のある、分別できる、正気の」である(研究社新英和辞典)。ライフサイエンス辞典および共起表現をみると、全て「合理的な」の和訳であった。実例では、"rational design" 「合理的なデザイン・計画」、ex. "the rational design of new treatment" あるいは "rational approach" 「合理的アプローチ」、ex. "arational approach for cancer prevention and treatment" などが多く、その他 "a rational treatment" や "a rational strategy" などと使われていた。
 rationally(副)「合理的に」、rationalism「合理主義」、rationalist「合理主義者」、rationalistic「合理主義的な」、rationality「合理性」などの派生語がある。rational number は数学の「有理数」、irrational number は、たとえばルート2、ルート3、π(円周率)などの、「無理数」である。ラテン語の ratio は「計算」であるが、英語では「比率」(数学)である。ration は(名)「割り当て、」、(動)「配給する」である。
 rational をライフサイエンス辞書の共起検索リストで調べる中、重大で、かつ、おもしろい間違いがあることを発見した。示された例文、"We discuss possible rationales for local axonal translation." は、rational は形容詞であるので + es はありえないはずである。rationale の複数形 rationale + s が rational の項に紛れ込んでいると言わねばならない。このような例文が7例あった。PubMed の論文の中から自動的に例文を引き出すコンピューターシステムで共起検索が作られているのであろうが、そのコンピューターの限界を垣間見たと思った。話が少し横道にそれてしまったようである。
 さて、rationalize は研究社新英和辞典では他動詞(1)「(ことを)合理的に説明する」、(2)「(自己の行動を)正当化する」と自動詞「合理的に考える(think rationally)」であるが、ライフサイエンス辞書および共起表現の300例文でみると、論文上であるので全例他動詞使用であった。またその能動態的使用と受動態的使用例数はほぼ半々であった。能動態例は"These findings rationalize a mechanistic approach to lung cancer treatment ……"、"Our results rationalize the contribution of both co-activator ……"、"We therefore rationalized that ……"などで、受動態例は "Our results can be rationalized by considering ……" や "These difference is rationalized to result from ……"などであった。
 関連語 rationalization は、研究社新英和中辞典では(1)正当化、(2)合理化、(3)(数学)有理化であるが、一般的には、「日本語 WordNet」に書かれている、「あることを首尾一貫、理に基づいていると思わせるための認知過程」の方がわかりやすいと思われる。ライフサイエンス辞書の共起表現には61例が示されているが、前記した rationale と同様に、"provide a rationalization for ……" や "provide rationalization of ……" のように provide に引き続く例が多く、また "rationalization for" ex. "These result provide a rationalization for apparently contradicting reports from ……" あるいは "rationalization of" ex. "These result provide rationalization of some of the findings by others ……"などの使用例が多かった。
 rationalization には「理由づけ」(日英・英日専門用語辞典)、「弁解」、「趣旨説明」(Weblio 英和対訳辞書)などの意味もあり、会話、"What you're saying's nothing but a rationalization for you rmistake." にみるごとく、「正当化すること」(アメリカ英語表現辞典市橋敬三著)などというあまり良くない意味を示すこともある。今回は、英語で医学的議論をする中で、また、論文を書く上で、インパクト感が強く、かつ、おもしろいアクセントをする rationale に注目してみた。(続く)

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蛍の瓦版〜その11 理事 児玉伸子(こしじ医院)

1.在宅医療連携に関する長岡市医師会の取り組み
 後期高齢者が急増する2025年問題に備えて、行政は在宅医療の充実に取り組んでいます。昨年度から長岡市は長寿はつらつ課が事務局を務める地域包括ケア推進協議会を立ち上げ、様々の活動を行っています(瓦版8月号を参照下さい)。今年の2月17日には市が呼びかけて、市内の訪問看護ステーションがまとまり“訪問看護ステーション連絡会”が立ち上がりました。
 平成26年度に医師会が出席した在宅医療連携に関連する会議は計55回あり、太田会長、長尾・大塚両副会長をはじめ担当理事や事務局が参加してきました。市医師会の内部にも、在宅医療連携協議会(瓦版12月号を参照下さい)を立ち上げています。
 3月26日には第2回の在宅医療連携協議会があり、今後長岡市が導入を予定している ICT(注1)の TEAM について、システムの開発業者と行政の担当者も出席して議論しました。現在長岡市は栃尾・小国地域でタブレット端末を活用し、介護と看護を連携させるモデル事業を行っています。TEAM では、このモデル事業を医療へも発展させて、訪問看護ステーションと診療所間の情報共有も図っていく ICT です。
 財源としては、昨年の7・8・11月号の瓦版でも御紹介した地域医療介護総合確保基金から、在宅医療推進センター(郡市医師会単位で設置予定)整備事業に対し、17万円の予算が認められました。また、在宅医療情報化推進調査・検討事業(郡市医師会単位)に21万円と ICT の経費として103万円が予定されています。さらに長岡市から端末機100台が無償貸与されます。当初は市内の訪問看護ステーションと希望する診療所から順次使用を開始する予定です。
注1:ICT(Information and Communication Technology)はパソコンやタブレット端末を用いて、多職種間で情報を共有するシステムです。現在日本各地で様々な端末機やソフトを用いた方法が施行されており、新潟県では佐渡市が先進的に行っています。厚労省は導入を推奨していますが、入力の煩雑さや維持費の問題があり、未だ汎用されているものはありません。
追記:3月13日に、こぶし園総合施設長の小山剛さんが60歳で急逝されました。彼は、長岡市地域包括ケア推進協議会の副会長を務められ、長岡市の介護分野では牽引車のような存在でした。また介護の現場を熟知しながら、厚労省本部のお役人と互角に議論できる貴重な人材でした。御冥福をお祈りします。

2.女性医師子育てサポート事業
 新潟県医師会では、県内の医療機関に勤務中又は復職を希望する女性医師に対し、託児所やベビーシッターの利用料を助成しています。現在県内では25名が利用中ですが、中越地区は利用がありません。医師会員や非医師会員に関係なく助成が受けられるので、こころ当たりのある方に是非お声掛け下さい。

3.MàRoùの杜
 長岡造形大学の奥に、故丸山正三先生の遺作を収蔵展示している展示館供MàRoùの杜僑があります。昨年12月から冬期間のお休みでしたが、展示作品も一新され5月1日より再開されています。展示館は、大学の正門を入り左側の駐車場の脇を通り抜けた先にひっそりと建っています。建物に入ると、展示作品と内部の構造及び周囲の自然によって、特別の空間に入り込んだ気分になります。基本的に、土曜と月曜以外の時から16時に開館しています。休日にでも、是非一度はお出かけ下さい。TEL 0258(21)3311(代)。

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巻末エッセイ〜山菜採り十二ヶ条 江部達夫(江部医院)

  往診に廻る夕暮れ日脚伸ぶ

 冬至も過ぎて一ヶ月、大寒の頃、どんよりとした鉛色の雪雲が切れ、澄み渡る青空が広がった日の夕暮れ、往診に廻りながら、「日が長くなったなー」と実感。この春の兆に、私の胸がざわめき出す。春を待つ心が燃え始めて来たのだ。私の道楽、山菜採りや渓流釣りシーズンの幕開けだ。
 昭和20年8月、私が国民学校(今の小学校)三年生の時日本は敗戦。戦時から始まっていた食糧難は戦後ますますひどくなった。8月1日の空襲で長岡は焼け野原に。吾が家の焼け跡には21年の春、小さな家が建てられた。一階は戦地から帰って来たばかりの父の仕事場に。小さな診療所だったが、患者さんがたくさん来ていた。
 庭木が燃えてしまった庭は広い空き地に。母と子供達、鍬で土を起こし畝を作り、肥やしを入れ、種を蒔いた。十種程の野菜を作った。庭に沿って流れている柿川では、フナやウグイ、ナマズが釣れた。庭で採れた野菜や川魚は食卓を飾った。戦後の半自給の生活の中、山野に自生する食材となる野草で、初めて採ったのがフキノトウ。雪解けの田の畦に緑鮮やかな芽を出していた。以来70年の山菜採り人生の始まりだ。今ではうまい山菜20種程を採りに、初春から初夏にかけて近くの里山や遠くの谷間に出かけている。以下が私の山菜採りの心得である。

一、命あっての山菜採り。
二、一人で深山に入るべからず。
三、行き先は家族に知らせておく。
四、図鑑だけで採るべからず。
五、素人だけの判断は禁。
六、山ではタバコを吸うべからず。
七、残るを多く採るべし。
八、二番芽は採るべからず。
九、他人に上げる前自分で食べよ。
十、採ったものは皆食べる。
十一、食べ過ぎに注意。
十二、マムシ、蜂、ダニや熊に注意。

 山菜採りは決して安全なものではない。毎年事故が起きている。山での危険は転落や熊との遭遇だけではない。毒草の誤食で命を落とす人も後を絶たない。注意してさえいれば避けられる事故だ。
 誤食による食中毒、トリカブト、ミズバショウ、コバイケソウ、スズラン、ドクゼリなどが多い。
 トリカブトの若葉はモミジガサやニリンソウの葉によく似ている。不幸なことに、この三種は度々同じ場所に生えている。同じような環境が生育に合うからだ。根がついている中は見分け易いが、若葉だけだと見分けは困難だ。ミズバショウやコバイケソウは巻き葉の中はウルイと誤って採られている。長岡でも死に至った誤食に、ギョウジャニンニクと誤りスズランを食べた例がある。
 図鑑を頼りに独自の判断で山菜は食べてはならない。誤って食べても腹痛、嘔吐や下痢で治るものは怖くないが、神経毒や心臓毒になるものは死に結びつく。キノコも含めて自然界には毒性植物がたくさんある。トリカブトは少量をうまく使えば薬になる。漢方薬の附子はトリカブトぶしの根から抽出されたもの。ジギタリスもしかり。
 そろそろフキノトウが私のお出ましを待っている。明日は日曜日、出かけるとしよう。(平成27年3月記)

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