長岡市医師会たより No.480 2020.3


もくじ

 表紙絵 「金門橋」 木村清治
 「山形の魅力」 長谷川 遥(長岡中央綜合病院)
 「第12回中越臨床研修医研究会
 「蛍の瓦版〜その56」 理事 児玉伸子(こしじ医院)
 「巻末エッセイ〜トイレのかぎはかけましょう」 磯部賢諭(キャッツこどもクリニック)



「金門橋」 木村清治


山形の魅力 長谷川 遥(長岡中央綜合病院)

 初めまして。長岡中央綜合病院研修医2年の長谷川遥と申します。私は高校までは新潟市に住んでいましたが、山形大学に進学し6年間山形市に住んでいました。6年間で味わった山形県の魅力についてご紹介したいと思います。なお、あくまで個人的な意見・感想であることにご留意ください。
 まず基本情報として、山形県は大きく分けて4つの地方に分かれています。山形市、上山(かみのやま)、蔵王(ざおう)、天童などを含む村山地方、鶴岡、酒田などの庄内地方、米沢、赤湯などの置賜(おきたま)地方、新庄、最上などの最上地方です。それぞれの風土から生まれたグルメ、温泉などの観光名所が点在しています。温泉、観光地、グルメに分けておすすめを紹介します。
 @温泉
 個人的には銀山温泉がおすすめです。江戸初期に栄えた銀山の閉山後も湯治場として栄えた温泉地で、大正末期から昭和初期に建てられた洋風木造の旅館が川の両岸に並んでいます。大正レトロの風情漂う銀山温泉は、「おしん」の舞台にもなりました。冬は雪が積もる中、ガス灯の温かい光が揺れ、とても情緒ある風景が楽しめます。(ただ冬は雪が多いため、車で行くのは中々大変です)
 その他にも、あつみ温泉、天童温泉、かみのやま温泉、肘折温泉など有名な温泉地が数多くあります。
 A観光地
 まず蔵王山の樹氷がおすすめです。樹氷は蔵王スキー場の針葉樹に雪と氷が覆われてでき、別名「スノーモンスター」とも言われています。大自然の美しさと迫力ある風景を、ロープウェイに乗って味わうことができます。期間限定でライトアップも行っており、海外からの観光客も訪れます。ただし極寒のため、防寒はこれでもかというくらい万全な方が楽しめます。蔵王山にはスキー場、蔵王温泉があり、また冬以外は御釜(火口に水が溜まってできたカルデラ湖)に行くのもおすすめです。
 他に大自然を満喫できる場所として、出羽三山があります。出羽三山とは、羽黒山、月山、湯殿山の総称で、1400年以上の歴史を誇る山岳信仰の霊場です。羽黒山で現世の幸せを、月山で死後の極楽浄土を、湯殿山で生まれ変わりを願います。出羽三山を巡ることで、生きながらにして生まれ変わることができると言われています。出羽三山への参拝は、「西の伊勢参り」に対して「東の奥参り」と称され、東北有数のパワースポットです。私は、羽黒山と湯殿山を参拝しました。ちなみに羽黒山には一度に三山の神々にお参りできる三神合祭殿があります。
 鶴岡市にある加茂水族館は、クラゲの展示が特徴的でクラゲの展示種類(50種類以上)が世界一を誇ります。丸い大水槽の中で揺らめくクラゲドリームシアターはおすすめです。他にも、山寺(宝珠山立石寺)が有名です。山の上にあるお寺で、約1000段の石段を上った先には美しい景色が広がります。山寺は松尾芭蕉による紀行文『奥の細道』にも登場します。また夏には、花笠を持って踊る花笠祭りがあります。
 Bグルメ
 まずおすすめしたいのは、芋煮です。里芋、牛肉、ネギなどを醤油で味付けした煮物です。私も今でもたまに作ります。シメのカレーうどんも絶品です。地元の人は、友人や家族と河原で大鍋を借りて芋煮会をします。また毎年秋には日本一の芋煮フェスティバルが開催され県外からも多くの人が訪れます。
 山形はラーメンも有名です。地方によって特色があり、味噌ラーメンに辛味噌がトッピングされている赤湯ラーメン、自家製麺を使用し透き通った醤油味の酒田ラーメン、鶏モツが入った新庄地方のとりもつラーメン、冷たいスープの冷やしラーメン、あっさりとした醤油味のスープに手もみの細い縮れ麺の米沢ラーメンなどがあります。また、私は鳥中華(蕎麦屋で誕生し、蕎麦のつゆに使われる和風だしのスープにラーメンの中華麺を入れ、鶏肉、天かす、海苔などをトッピングしたもの)も好きでした。ラーメンだけでなく、蕎麦も美味しいです。山形の蕎麦は、色が黒く、太めでやや硬いのが特徴です。
 また山形はフルーツ王国でもあり、年間を通してさまざまな果物が栽培されています。おすすめは、最も有名なさくらんぼです。佐藤錦も美味しいですが、大粒で果肉が硬く歯応えがあり、糖度が高い紅秀峰の方が私は好きでした。また、全国生産量の8割を占めるラフランスも美味しいです。
 まずおすすめしたいのは、芋煮です。里芋、牛肉、ネギなどを醤油で味付けした煮物です。私も今でもたまに作ります。シメのカレーうどんも絶品です。地元の人は、友人や家族と河原で大鍋を借りて芋煮会をします。また毎年秋には日本一の芋煮フェスティバルが開催され県外からも多くの人が訪れます。
 他にも、米沢牛や酒田の海鮮も美味しいです。日本酒、ワインも美味しいものがたくさんありますが、詳しくないので割愛します。
 まだまだ語り尽くせない、山形の魅力がたくさんあります。隣県なので、ぜひ一度訪れてみてください。

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第12回中越臨床研修医研究会

 令和2年2月5日(水)18時45分〜 ホテルニューオータニ長岡

著明な精神症状を呈したクッシング症候群の1例  長岡赤十字病院 川上絢子

【症例】 38歳、女性
【主訴】 後頚部痛、食欲不振、体動困難
【現病歴】 入院9カ月前から後頚部痛、肩こりを自覚し、神経内科を初診した。緊張型頭痛として加療したが改善がなかった。入院1カ月前から食欲不振と自発性低下が出現し、体が動かしにくくなった。終日臥床状態となり、食事を全くとらなくなったため神経内科に入院した。入院時、血圧170/110 mmHgで、神経学的には、抑うつ、不安、不眠といった精神症状に加えて、仮面様顔貌、安静時振戦、四肢体幹の筋固縮、動作緩慢などのパーキンソニズムを認めた。入院時検査所見では、LDLコレステロール237 mg/dlと高値で、随時コルチゾール値や甲状腺機能は正常範囲内であった。身体所見では、満月様顔貌と中心性肥満、赤色皮膚線条を認め、コルチゾール日内変動消失やデキサメタゾン抑制試験、CRH負荷試験の結果から副腎性クッシング症候群が疑われた。腹部CTで左副腎に径2.5 cmの結節を認め、アドステロールシンチ検査で同部位に集積を認めたため、左副腎腺腫を摘出した。術後、約2カ月でパーキンソニズムは消失し、自発性および食欲の低下も改善してADLが自立した。
【考察】 クッシング症候群では多彩な精神症状が見られ、症状強度は血中随時コルチゾール値に依存しないことが知られている。過剰なコルチゾール作用から前頭葉機能障害をきたし、自発性低下や食欲低下などのアパシーと呼ばれる精神症状をきたすと考えられている。本例のように、一見不定愁訴ともとれる症状で発症することもあり、診断に苦慮する例がある。一方、クッシング症候群でパーキンソニズムをきたした報告はこれまでにない。コルチゾール低下をきたすACTH単独欠損症ではパーキンソニズムをきたすことが知られており、本例は、下垂体・副腎系と錐体外路症状には何らかの関係があることが示唆される貴重な症例と考えられた。

バセドウ病の身体所見を欠き、舌を含む四肢体幹の筋萎縮をきたした甲状腺中毒性ミオパチーの1例  長岡赤十字病院 登内孝文

はじめに:甲状腺中毒性ミオパチー(thyrotoxic myopathy:TM)は甲状腺機能亢進症で、四肢近位筋優位の筋力低下を伴う病態であるが、通常頻脈・発汗過多・手指振戦・眼球突出・甲状腺腫大などのバセドウ病の身体所見を伴う。遠位筋にまで筋萎縮が及ぶことはほとんどなく舌の萎縮をきたしたとする報告はこれまでにない。今回体重減少以外にバセドウ病の身体所見を認めず、舌を含む体幹と四肢の筋萎縮と筋力低下を認めたTMの症例を経験したのでここに報告する。症例は74歳男性。3年前から四肢近位部の痛みがあり、約2年間の経過で体重が15 kg減少し、3カ月前から下肢の脱力感が出現したため前医を受診。筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)が疑われたため神経内科に紹介入院となった。
 入院時現症:血圧106/72 mmHg、脈拍93/分、体重減少以外にバセドウ病の身体所見は認めなかった。神経学的に舌辺縁と体幹・四肢の筋萎縮を認め、徒手筋力テスト4レベルの筋力低下を認めた。握力は21/ 22kgでガワーズ徴候は陽性だった。線維束性収縮は認めず、腱反射は正常で病的反射は認めなかった。
 検査所見:血清CKは44 U/lと正常、可溶性IL-2Rが1.440 U/mlと高値で、FT3 12.7 pg/ml、FT4 2.56 ng/dl、 TSH < 0.01 μ IU/mlと甲状腺機能亢進を認めた。TSH受容体抗体が陽性で、頸部超音波検査では、甲状腺多発結節と血流増多を認めた。針筋電図検査では神経原性や筋原性変化を認めなかった。左大腿四頭筋から筋生検を行ったが、軽度の筋線維の大小不同を認めるのみで神経原性変化は認めなかった。以上より、バセドウ病とそれに伴うTMと診断し、チアマゾール15 mg/日、ヨウ化カリウム50 mg/日の内服治療を開始した。内服開始後、筋痛はすみやかに消失し、治療開始直前62 kgだった体重が5カ月後に70 kgと増加に転じ、握力は33/32 kgと回復して、四肢の筋力低下や舌を含む体幹・四肢近位筋優位の筋萎縮は改善した。甲状腺ホルモン値も、治療開始27日後に正常化し、可溶性IL-2Rも治療経過に伴い正常化した。
 考察:甲状腺機能亢進症では、甲状腺中毒症状を欠き、TMが主症状のことがある。本症例のように舌の萎縮も認めることがあり、ALSに類似した病像を呈することがある。抗甲状腺薬による治療で筋力低下、筋萎縮は改善するため、ALSの鑑別疾患として極めて重要と考える。

ポリドカノール局注療法でコントロールし得た小腸多発血管腫の1例  長岡中央綜合病院 堀 亜洲

【背景】 近年、小腸の多発性病変に対する内視鏡治療の有用性は広く認識されている。しかしながら、比較的稀な疾患だが小腸多発性血管腫からの出血はコントロールに難渋し外科的切除となる症例も多い。ここでは、内視鏡的なポリドカノール局注療法が有用であった1例について報告する。
【症例】 50歳代、男性。
【主訴】 立ち眩み、黒色便。
【現病歴】 X−2年より鉄欠乏性貧血を指摘されていた。X年1月13日、貧血症状・黒色便を主訴に当院ERを受診。RBC 238万/μl、Hb 6.1 g/dl、Ht 19.1 %と高度貧血を認め消化管出血と考えられたが上・下部内視鏡検査では異常を指摘されなかった。腹部dynamic CTで空腸に造影早期の強い造影効果と周囲の低濃度腫瘤を伴う病変が多発し小腸多発血管腫が疑われたため、小腸バルーン内視鏡(以下BAE)を施行。Treitz靭帯より約50 cmの部位から肛門側にかけて最大 φ20 mm大までの青色SMT様隆起が多発。隆起の頂部には発赤と絨毛腫大を認め出血を伴うものも確認された。内視鏡像からも小腸多発血管腫と診断。貧血の責任病変と判断し、血管腫に対するポリドカノール局注療法を施行。BAE下に小腸用25 G局注針を用いてφ15〜20 mm大の4病変に対して1%ポリドカノールを1病変につき2〜3 mlずつ注入。穿刺部位からの出血は先端フードを用いて圧迫止血した。貧血の改善が乏しかったことにより、同年2月14日、小腸カプセル内視鏡検査を施行。活動性出血はないものの、血管腫病変が複数箇所に残存する為、同年3月28日に追加治療を行った。Treitz靭帯より60 cmの空腸に初回治療後の瘢痕を認め、治療効果は良好と判断。さらに、深部へ挿入しTreitz靭帯より約1 mに認めた2病変に対して前回同様に追加局注を施行。以降、貧血は改善し経過は良好である。
【考察】 小腸血管腫に対するポリドカノール局注療法は手技的に簡便であり、病変径に応じた局注量のコントロールも容易であることから、特に病変が多発する症例に対して有用と思われる。

食道癌術前FP療法中に高アンモニア血症による意識障害を来した1例  長岡中央綜合病院 内海史織

【はじめに】 5-FUによるまれな副作用として高アンモニア(NH3)血症がある。既報告の多くは大腸癌に対するFOLFOX療法やFOLFIRI療法症例であり、食道癌に対するFP療法の報告は少ない。食道癌術前FP化学療法中に意識障害を伴う高NH3血症を来たした一例を報告する。
【症例】 66歳男性で嚥下困難と体重減少を主訴に受診し、下部食道癌と診断された。cT3N1M0,cStageIIIの診断で術前化学療法としてFP療法を開始した。5日目に見当識障害、歩行障害、尿失禁が出現した。頭部CTおよびMRI検査では異常所見を認めず、血清アンモニア243μg/dlとBUN、Creの上昇を認め、5-FUによる高アンモニア血症と判断した。5-FU投与を中止し、補液と分枝鎖アミノ酸製剤で翌日の血清NH3値は正常化し、意識状態も改善した。術前化学療法を中止し、胸腔鏡補助下食道切除術、2領域郭清を施行した。病理組織学的検査はpT2N0M0,pStageIIであった。術後補助化学療法は行わず、術後3年5カ月経過した現在無再発生存中である。
【考察】 5-FUは大部分が肝代謝であるが大量投与により代謝産物であるNH3が過剰産生される。NH3は肝における尿素サイクルの他、腎排泄、筋肉・脳でも代謝されるため、肝機能障害だけでなく腎機能障害や骨格筋量の低下、脱水、感染症等が高NH3血症発症のリスクといわれている。本例は意識障害発症時の血液検査でBUN/Cre比の上昇を認めており、脱水や腎機能障害が高NH3血症誘因となった可能性がある。5-FUを含む化学療法中に意識障害を来たした場合、高NH3血症の可能性を念頭に置き、迅速な診断・治療を行う必要がある。

非特異的経過を辿ったリンパ球性心筋炎の1例  立川綜合病院 若杉優樹

症例は55歳、男性で主訴は心電図異常です。冠リスク因子は現喫煙、糖尿病、高血圧症です。現病歴はX年7月より浮腫や胸水増悪を認めました。当初は心房細動による心不全増悪と考えられ、利尿剤および心拍数のコントロールが開始され、症状は軽快しました。このとき心エコーは正常でした。10月の定期的な再診でたまたまとった心電図検査で下壁誘導にST上昇を認め、ACSの疑いで当院へ紹介となりました。入院時自覚症状はありませんでした。
 検査所見では好酸球の増加や、心筋逸脱酵素の上昇はありませんでしたが、トロポニンTが陽性でNT-Pro BNPが上昇していました。心電図は心房細動で下壁誘導のST上昇を認めました。冠動脈に有意な狭窄はなく、びまん性壁運動低下を認めました。
 局所的な心筋炎を念頭に採血・心電図フォローで経過観察の方針としました。入院後の採血検査ではCKの上昇はなく、トロポニンTは翌日、ピークアウトを確認しています。日ごとにSTは正常化しましたが、QTcは入院時より480 msec以上でQTは延長していました。入院6日目の夜間に突然VPCのR on TからTdP、心室細動となり電気的除細動を要しました。
 心筋生検では、心筋細胞の広範な消失と浮腫性間質、リンパ球浸潤を認め、急性リンパ性心筋炎と診断しました。
 アミオダロン持続静注を開始し、免疫グロブリン投与を開始しました。以降、機械補助やカテコラミンを使用せずに血行動態は保たれていました。心室細動蘇生例であり、着用型自動除細動器(Life Vest)を使用し、24日目に自宅へ退院としました。退院後3カ月の経過で着用型自動除細動器の作動はありませんでした。
 3カ月後、心筋生検を再検したところ、心筋の間質は拡大し、心筋細胞の配列は乱れ、アザン染色では線維性結合組織の増加を認めました。
 心筋生検で線維性変化を認めたこと、壁運動低下が残存していることから非可逆性の変化と考え、皮下植え込み型除細動器を植え込みました。
 今回、我々は定期的な外来診察での心電図異常から急性心筋炎の診断に至った一例を経験しました。
 少し前の論文ですが2000例の予期せぬ突然死の剖検のうち1.5 %の死因が心筋炎でした。また、文献によると着用型自動除細動器をつけた約600例の心筋炎の経過観察で、2年半の間に8例、1.3 %に適切な作動がありました。心電図変化のみの無症候性心筋炎であっても本例のように致死性不整脈を発症し、突然死する可能性があり、注意深い経過観察を要します。

経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)後に完全房室ブロックを生じた1例  立川綜合病院 篠原竜哉

【症例】 85歳 男性
【主訴】 労作時息切れ
【現病歴】 20XY年から10m程度の歩行で労作時息切れが出現するようになり近医受診したところ大動脈弁狭窄症(AS)と診断された。AS精査目的で当科紹介となり、心エコー上severe AS(最大圧較差111 mmHg、大動脈弁口面積0.44 cm2)であることが判明した。治療目的で当科入院となった。高齢、肺合併症、上行大動脈高度石灰化、3尖であることからSAVRではなくTAVIで治療する方針となった。TAVI弁はEvolut PRO 29 mmを留置した。TAVI術中から完全房室ブロック(cAVB)が出現した。術後は一時ペーシングで経過観察していたがcAVB不変のため、術後5日目に恒久ペースメーカーを留置した。
【考察】 TAVIの術後合併症として房室伝導障害が最多である。Mollmannらは33.7 %の症例でTAVI後に房室伝導障害が生じたと報告している。TAVI後のAVBに対してペースメーカー植込みを検討する因子として完全右脚ブロック(CRBBB)と人工弁型が挙げられる。
 術前にCRBBBがある場合は術後に生じたcAVBの持続率が70 %と高いのでなるべく早期にペースメーカー(PM)植込みを検討するべきである。一方、術前にCRBBBがない場合は術後24時間以内にcAVB合併したらcAVBの持続率は25 %と低いので少なくとも数日間は経過を観察すべきである。術後24時間以降にcAVB合併したらcAVBの持続率は75 %と高いのでなるべくそうきにPM植込みを検討するべきである。Nazifらの報告によると術後にPM植込みを行った症例の47.6 %がCRBBBを合併していた。
 TAVI弁はバルーン拡張型と自己拡張型の大きく2種類に分けられる。バルーン拡張型のPM植込み合併率はSapienXTで6.8 %、SapienVで10.0 %である。一方、自己拡張型のPM植込み合併率はCorevalveで23.5 %、EvolutRで18.4 %、EvolutPROで10.0 %である。
 その他にもリスク因子としてTAVI弁の直径と左室流出路の直径の割合がより大きく、左室拡張末期径がより小さい症例ほど術後にPM植込みが行われていることがわかってきている。
 TAVI後に完全房室ブロックを合併した場合は術前のCRBBBの有無、人工弁型、リスク因子も考慮してPM植込みの適応や時期について慎重に経過を見ていく必要がある。

心室細動を繰り返し、診断に苦慮した1例  長岡中央綜合病院 池内満里奈

 症例は59歳、男性。心室細動(VF)による意識消失を認め、DC 150 Jで除細動後当院に救急搬送された。意識消失の既往や突然死の家族歴はなかった。当院到着時の心電図は心拍数53 /分の洞調律で、T,U,aVF,V3-V6で軽度ST低下を認め、また血液検査でK 3.2 m Eq / Lと低下していた。体温管理療法中(34℃,12時間)に間歇的に心拍数は40 /分までに低下し、J波(T,U,aVF,V3-V6)とQT延長(V2:600 ms)を認めた。復温後、QT間隔は正常範囲であったが、時々心拍数の低下時にJ波が記録された。QT延長症候群の鑑別目的に施行したエピネフリン負荷試験でQTc間隔は381 msから506 msに延長したが、遺伝子検査では不整脈関連遺伝子異常は認めなかった。Brugada症候群の鑑別目的に施行したピルジカイニド負荷試験では右胸部誘導での心電図変化はなかった。冠動脈造影で有意狭窄を認めず、冠攣縮は誘発されなかった。また、心臓電気生理検査ではVFは誘発されなかった。ICD植え込みのため待機中に再度徐脈に伴うJ波の出現・増高とVFを認め、意識消失した。ICD植え込み後、70 /分でペーシングを開始したが、以後J波は認めず、VFも認めていない。体温管理療法中に心拍数の低下とJ波の出現を認め、鑑別の検査を行うとともに、頻回に心電図をとることで、VFの原因としてJ波症候群の診断に至ることができた症例を経験した。

脊椎椎間板炎を合併した多発性骨髄腫の1例  立川綜合病院 相田 涼

【症例】 65歳、男性。
【主訴】 腰痛。
【既往歴】 特記事項なし。
【現病歴】 20 XX年8月30日起床時より腰痛を自覚した。翌日まで様子をみていたが軽快せず、立川綜合病院救急外来に救急搬送された。急性腰痛症と診断されたが、腰痛の自覚症状が強く帰宅困難であったため、当院入院となった。
【入院後経過】 入院による安静後も腰痛は改善しなかった。第6病日にMRIで脊椎椎間板炎、腸腰筋膿瘍を認め、抗菌薬による加療を開始した。血液培養ではStreptococcus agalactiae陽性となった。血液検査では、炎症反応の上昇のほか、腎機能障害(BUN 60.0mg/dL、Cre 4.57 mg/dL)、蛋白・アルブミン値の乖離(TP 7.7 g/dL、 Alb 2.2 g/dL)、赤血球の連銭形成を認めた。血清蛋白分画検査では、M蛋白を認め、IgG 4548 mg/dL、κ/λ比 0.01よりIgG軽鎖λの異常増加を認めた。骨髄穿刺で多発性骨髄腫と診断し、治療(ポマリドミド、デキサメタゾン)を開始した。腰痛の原因となった感染症については、9週間の抗菌薬治療で軽快し、自力歩行可能となった。腎機能については十分な輸液による腎保護によりCre 3 mg / dL前後で安定した。第91病日に退院し、以降は外来でフォロー中である。
【考察】 本症例の腰痛は感染に伴うものであり、多発性骨髄腫の骨病変による典型的な腰痛(安静や夜間で改善する)とは異なるものであった。安静で軽快しないような腰痛は、重要疾患を想定した診療が必要であるといえる。脊椎椎間板炎発症の背景としては、多発性骨髄腫による免疫低下が考えられた。
【結語】 腰痛を契機に発見された多発性骨髄腫の1例を経験した。初療時には腰痛以外の症候が見られなかったこと、感染による腰痛から多発性骨髄腫の診断に至ったことが示唆に富むと考え報告する。

蚊刺を契機に急性腎障害を呈したEBウイルス持続感染症例の1例  長岡赤十字病院 古山海斗

【症例】 80歳、女性
【主訴】 腎機能障害
【現病歴】 受診1カ月前に、屋外で顔面と大腿を蚊に刺された。まもなく蚊刺部に顕著な皮疹と、両下肢の著明な浮腫が出現したため前医を受診した。Cre 4 mg/dlと上昇を認め当科へ紹介された。蚊刺部の著明な皮疹から蚊刺過敏症を疑い同部から皮膚生検を施行したところ、顕著な好酸球・リンパ球浸潤とEBウイルスゲノム陽性リンパ球の浸潤を認めた。末梢血白血球中のEBウイルスゲノムのコピー数上昇と特徴的なEBウイルス抗体価の上昇(VCA-IgM陰性かつVCA-IgGの著明高値)を認め、複製型のEBウイルス持続感染状態と考えられた。腎生検所見で、半月体形成を認め、蛍光抗体法所見からIgA腎症と診断した。ステロイド治療を行ったが腎機能改善を得られず維持透析となった。
【考察】 EBウイルスの持続感染例に、蚊刺過敏症を認めることが報告されている。一方でEBウイルス持続感染例と糸球体障害の関連についての報告は乏しい。本症例は、EBウイルスの持続感染を認めたIgA腎症の症例で、蚊刺を契機に急性増悪を呈した。EBウイルス持続感染状態と腎炎の関連を示唆する貴重な症例と思われ報告する。

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蛍の瓦版〜その56   理事 児玉伸子(こしじ医院)

 ドナルド・マクドナルド・ハウスにいがた

 “ドナルド・マクドナルド・ハウスにいがた”は、令和4年4月の開設を目指して準備が進められています。
 “ドナルド・マクドナルド・ハウス”は、自宅から離れて療養している病気のお子さんの治療に付き添う家族ための滞在施設です。病児とその家族にとっての第二の我が家を目指し、寄付とボランティア活動によって支えられています。昭和49年にアメリカのフィラデルフィアの小児病院から始まったチャリティー活動で、現在世界44カ国に375施設が開設されています。日本では平成13年に国立医療成育センターの近くに設立された“せたがやハウス”を始め、仙台・札幌・栃木・大阪等既に11箇所で開設されています。活動の設立当初より現在もハンバーガーのマクドナルドは協力企業として大きく関わっていますが、それぞれの国ごとに独立した財団が主体となって運営されています。
 病児だけではなくその家族も含めて支えるために、安価で居心地の良い宿泊施設に加え、くつろぐための共有スペースや自炊施設も備えています。また施設はボランティアによって運営されており、様々な方面からのサポートも期待されています。
 財団では、ハウスの建設や運営を新しい医療文化の始まりと捉えているそうです。病院だけで病気を治療し病人をケアするのではなく、広く社会全体で病気の人や家族さらに病院をも支えようとしています。
 新潟では新潟大学医歯学総合病院が中心となって、本邦12番目で日本海側初となる“ドナルド・マクドナルド・ハウスにいがた”の開設を進めています。大学病院敷地内に約700u2〜3階建て約10室のハウスの建築を予定し、総額1・8億円の資金を募集しております。新潟県医師会や新潟市医師会を始め、その他新潟大学医歯学総合病院と関連が深い山形県の酒田市や鶴岡市の医師会からも寄付の申し出があるそうです。長岡市医師会でも先日の理事会で新潟市の半分程度の寄付を予定しております。
 ハウスの趣旨に賛同される方は、是非個人でもご寄付下さる様お願いします。新潟大学のホームページでも募集しておりますし、医師会事務局へもお問い合わせ下さい。現在新潟大学病院には長岡市の病児も数多くお世話になっており、今後とも増加すると推測されます。

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巻末エッセイ〜トイレのかぎは、かけましょう。 磯部賢諭(キャッツこどもクリニック)

 いや、ぜひドアをきちんと閉じて、鍵をかけてください。お願いします。

 昔、上越にいたときの話です。仕事を終えて夜10時過ぎ、病院からの帰宅途中、トイレに行きたくなりました。我慢強いほうなのですが、膀胱がはち切れんばかりで限界です。下腹部を触っても膀胱が触知できます。押せば出る感じです。下腹部が「押すな。押すな。」と叫んでいます。眠気覚ましにコーヒーをがぶ飲みしすぎたせいでしょうか。それとも冷たい車内で冷えたせいでしょうか。どうしてもトイレに行きたくなり、近くのコンビニエンスストアに入りました。

 「トイレ使わせてください」

 と店員に断ってから、トイレのドアをノックしました。返答がないので、ドアを開けるとなんと女性の白いお尻が見えたのです。

 「あーっ、あっ」「あっ、あーっ」

 とお互いになぜか声がでて、

 「ごめんなさい」と叫び、バタンとドアを閉めました。 ―トコトコトコ、タッタッタッ、ダー―

 そして、猛ダッシュで逃げました。なぜか自宅まであとをつけられないように遠回りして帰宅しました。もう時効でしょうか。すみませんでした。ですが、トイレの構造に問題ありです。人間が段差のある和式便器にしゃがむとドアまでは距離があり、手も届きません。約20年前の話です。立ってもしゃがんでもできる昔のタイル貼りの和式トイレです。

 フールプルーフ(fool proof)と

 フェイルセーフ(fail safe)

 もう皆さまご存じでしょうが、おさらいです。ヒューマンエラーの話です。フールプルーフとはそもそもミスしない設計のもの。ブレーキを踏んでいないとかからないエンジンや、医療ガスを接続しようとしてもピン数により接続できない構造、間違った輸液ではつながらないコネクター構造、蓋を閉じなければ回らない洗濯機など、私たちは構造的に守られています。フェイルセーフとは、ミスしても安全な構造です。車の自動ブレーキシステムもそうです。新幹線の緊急停止システムや、医療機械では誤操作で機能が自動停止するシステムです。

 ユニバーサルデザイン(Universal Design:UD)

 ユニバーサルデザインって大事です。誰もが公平に柔軟に使用でき、単純で理解しやすく、かつ少ない身体的努力と失敗に関する寛大さをもち、適格なサイズと空間を考慮されています。比較的最近の概念です。低床バスや左手でも使えるハサミ、シャンプーとリンスの凸凹、非常口に代表されるピクトグラム(絵文字)、電車ホームの二重扉、レバーハンドルのドアノブ、車いす・ベビーカーやオストメイトを使用している方も使いやすいトイレの構造などなど、たくさんあります。

 「自動でトイレのカギがかかるようにしてください」誰もが容易に使えるデザインにしてください。中に人が入っている時は、外に自動的に表示や掲示がでるようにしてください。中に入ると自動的にカギがかかり、そして出るときは、中からは容易にドアが空くように、外からは容易にあかないようにしてください。

 先ほどのトイレは構造的に問題ありでした。便器にしゃがむとお尻がドアに向いている。横にすべきだ。そして、しゃがんだまま手を伸ばしてもドアにまったく手が届かない縦長の構造。その時代にユニバーサルデザインの概念が存在していれば、と後悔してももうすでに時は遅し、です。

 帰宅すると、尿と尿意はなくなっていました。

 「あの時の尿と尿意はいったいどこへいっちゃったんでしょうね。お母さん。」

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