長岡市医師会たより No.482 2020.5


もくじ

 表紙絵 「ジャズを聴かせる店」 木村清治
 「今、MSFの活動を通して思うこと〜国境なき医師団5」 鈴木美奈(魚沼基幹病院)
 「新潟県医師会研修医奨励賞」 理事 児玉伸子(こしじ医院)
 「新潟で働く研修医が出会った、身近な問題への解決策」 平山香菜(立川綜合病院)
 「地域医療における「人」の問題点に対する、医師会への提言」 五十嵐崇徳(長岡中央綜合病院)
 「蛍の瓦版〜その57」 理事 児玉伸子(こしじ医院)
 「巻末エッセイ〜新型コロナ肺炎と温泉湯治」 福本一朗(長岡保養園)



「ジャズを聴かせる店」 木村清治


今、MSFの活動を通して思うこと〜国境なき医師団5  鈴木美奈(魚沼基幹病院)

 これまで連載してきたように、アフガニスタン、ナイジェリア、エチオピアへMSFとして行ってきました。この経験で感じたことが3つあります。
 1つ目は、日本の産婦人科医療の質が本当に高いということです。ナイジェリアにおいては、胎内死亡、あるいは難産のための新生児死亡、無事生まれても病気や感染による乳児死亡が多く、妊娠回数の半分しか子どもを得ることできません。それに対して日本は、安全な妊娠、分娩が当たり前と思われるほどに産婦人科医療は高度なものになっています。しかし、安全の提供が当たり前になりつつある現在、より快適な妊娠、出産を望む妊婦が多くなり、産婦人科診療が一部でサービス業化している部分は否めません。それが悪いこととは思いませんが、母児ともに安全な妊娠、分娩を提供される幸せを認識してほしい気持ちはあります。
 2つ目は、日本の妊産婦を取り巻く環境に改善の余地がすごくあるということです。妊産婦の環境改善に必要なこと、それはずばり他人を思いやる心です。発展途上国の人は皆、家族を大切にし、他人でも困った人がいれば助け合います。強い家族愛、人間愛を持っているのです。例えば、お産後6時間で褥婦は退院しますが、こんなに早く退院しても育児にあまり問題は起きません。なぜなら、大家族で生活しているため、曽祖母、祖母らがお母さんに授乳、育児のノウハウを教え手伝い、必要に応じてお母さんの心のケアもしてくれるからです。また、帝王切開した初産婦さんが授乳の仕方がわからずオロオロしていると、隣のベッドに寝ている経産婦さんが、自分の傷の痛みを押して授乳の仕方を教えてあげたりするのです。核家族化が進み、他人への興味が薄れている日本では見ることの少ない光景で、感動しました。ナイジェリアの病院のスタッフに、「日本では産後うつになる人が少なからずいるんだよ」と話すと、「どうしてだ?」と、理解できないようでした。
 3つ目は、たくさんの方々の支えがあってこそ、私は自由な勤務形態をとり、微弱ながら世界の医療過疎地に貢献できるのだということです。長岡赤十字病院時代をはじめ、たくさんのことをご教授、ご鞭撻いただいた諸先生方、かけがえのない経験をくださった全ての患者さま、そして、年に3〜6カ月休職しても、「無事に帰って来てこいよ。」という勿体ないお言葉で送り出して下さる魚沼基幹病院の先生方がおられるお陰です。そして、生還をいつも不安に思いながら何も言わず好きなことをさせてくれる家族。ありがとうございます、なんていう平凡な言葉では足りないほど感謝をしております。
 医学進歩に伴い、医業細分化、専門化が進んでいる昨今、私のような働き方が受け入れられるのか、あるいは若い人たちに声高に勧めていいのかはわかりません。しかし、こんな医師としての生き方もあるということを伝えてみてもいいかなーという思いと、お世話になった先生方に、世界の恵まれない人達への医療援助という形でいただいた恩を返し、きちんと社会貢献している報告をしたい思いがありました。また、実はMSFには、医療貢献と同じ位の比重で、世界で起きている悲劇を広く伝えるという任務があるのです。私が実際経験したことを、この紙面に書かせていただくことで、多くの方に世界の悲惨な現状を知っていただければ、という思いもあり、今回寄稿させていただきました。徒然の長文にお付き合いいただきありがとうございました。

「ナイジェリアと日本のインファントウォーマーの違い生まれた国の違いが医療の違いとなる」

「ナイジェリアと日本のインファントウォーマーの違い生まれた国の違いが医療の違いとなる」

「35℃を超える気温の中、患者のために病院の庭で待機する家族たち」

「いつも快く送り出してくださる基幹病院の先生達」

「世界中の子供たちに夢と希望を!」

目次に戻る


新潟県医師会研修医奨励賞   理事 児玉伸子(こしじ医院)

 新潟県医師会では今年度から県内で研修する2年目の研修医を対象とした奨励賞を設けました。新潟県の医療が抱える課題や今後の医師会の役割等に関する提言をテーマに論文を募集し、最優秀賞(1名)優秀賞(3名)その他の奨励賞(6名)を選考するものです。
 初回である今回は、中越地区から立川綜合病院の平山香菜先生が優秀賞を、長岡中央綜合病院の五十嵐崇徳先生が奨励賞を受賞されました。いずれも新鮮な視点からの興味深い提言に愉しい驚きを感じました。御覧下さい。

 目次に戻る


新潟で働く研修医が出会った、身近な問題への解決策 平山香菜(立川綜合病院)

 医師国家試験に合格し、臨床研修医として新潟県で勤務しはじめ2年が経とうとしている。
 新潟県の医療の抱える問題は数多いが、医師不足への対策と、患者の医療機関へのアクセスをより効率的にすることで、医師全体の負担を減らすことができるのではないか。
 まず、医師確保のために、姉妹都市制度のように、大学間や病院間で協定を結び、医師の充足率の高い地方都市から当県へ医師を派遣してもらう制度は有効ではないか。学年は、専門医取得前後〜40歳頃までが妥当と考える。医師の充足率の高い地域では症例の取り合いが起こり、症例数の確保に苦労することがあると聞く。専門医取得への症例数の確保に、また研究や論文のデータや症例集めなどにも、複数の大学や地域にパイプを持つことは派遣される医師にとっても有益なのではないか。また、年齢を40歳頃までと仮定したのは、子育て世代にとっては子供の転校や受験も大きなライフイベントであり、名門進学校への進学を希望する場合や、子供の友人関係を考慮した場合に、「身を固める」時期に入ると考えるからだ。収入面や居宅の待遇なども過不足なく整える必要はあるが、1年〜数年程度の交代で継続的な派遣を依頼できれば、仮に定着は困難であったとしても、医師数の確保の一助になるのではないか。
 次に、医師からの離職率を下げなければならない。離職せざるを得ない状況としては、本人の心身の健康問題が第一に挙げられるだろうが、それだけでなく、育児や介護の負担も他職種同様にあると思う。特に、女性医師が増加している昨今、夫婦ともに医師という家庭も多い。「イクメン」の増加や、院内保育所の整備、「女性支援枠」の導入などで女性医師にとって働きやすい環境は整ってきているとはいえ、その一方で、医師同士の夫婦の勤務先が大きく離れてしまい、単身赴任(≒ワンオペ育児)を余儀なくされるケースもゼロではないはずだ。所属する診療科や医局によって、赴任先を近くの病院へするよう配慮する場合、一切ない場合があると聞く。人事の際に、その点をすべての診療科や医局で考慮していただくことで、子育てや介護をしながらも、医師としてのキャリアを絶え間なく続けることができるのではないか。
 話は一転するが、当直業務を行うようになり、気づいたことがある。それは、一般市民の方の医療への知識の薄さだ。それは何も、病態を理解することや、症状から鑑別すべき疾患を挙げるという意味ではない。自らの居住地の近くに、何科の医院があるのか、一般に何曜日の何時頃まで診察を受けることができるのか、知らない患者の多さに驚いたのだ。救急外来での診察や検査を経たうえで、緊急性がなく軽症の場合に「明日以降、近くの、この診療科の、開業医さんへ相談してください」と説明する機会は多くある。勤務先の近隣にある医院についてはある程度把握しているつもりだが、それでも、「市内のここに住んでいるのだけど、どこが近いですか?」や、「何時までやっていますか、連絡先は?」などの質問にはスムーズにお答えできないことが少なからずある。私たち、いわゆるスマホ世代や、親世代くらいまでであれば検索サイトや地図アプリを駆使し、所在地や診察時間の情報を得ることができるが、インターネットを使うことができない方も多数いる。時間に余裕があれば、できる限り丁寧に対応したいところではあるが、困難なときも多い。
 そこで、「@市町村/エリアから探す」「A診療科から探す」の目次のもと、医院の所在地と診察時間、可能であれば駐車場の有無と最寄りのバス停からの所要時間も記載した、わかりやすい地図を発行していただけたら、と考えた。各戸に配布できればベストだが、最低限町内の掲示板や集合住宅の玄関、公民館への掲示用に、そして意外と盲点になりそうな、各医療機関への配布があれば、医療機関に勤務する者の中でも情報共有ができ、患者へスムーズな情報提供が可能になる。
 わたしたち臨床研修医は、来春以降には各診療科の専攻医として、短ければ半年ごとに転勤しながら研鑽を積むこととなる。土地勘のつかぬまま勤務せざるを得ないことも想定されるため、そのような「開業医マップ」があると大変心強い。欲を言えば、「Bこんな症状の時は、まずこの診療科にかかりましょう」のおすすめ目次も必要だ。なぜならば、休日や夜間の救急外来には時折、「何科に行けばいいか分からなかったのでここに来ました」という患者も来てしまう。そんな方のために、「#8000」よりも認知度が低いと感じる「#7199」の周知や、「めまいを感じたらまずは脳神経外科か耳鼻科へ」のような、受診科を迷う症状へのサジェストなどもあるとよいのかもしれない。
 以上に自分なりの案をお話しさせていただいたが、既にすべて施行済みかもしれない。だとすれば大変失礼だなと恐れ入るばかりだが、いち研修医の案として御一考いただければと思う。

目次に戻る


地域医療における「人」の問題点に対する、医師会への提言 五十嵐崇徳(長岡中央綜合病院)

 研修医として2年間、院内・院外で研修させていただいてきた中で、医療は医師単独で成立するものではなく、コメディカルを含めたチームで初めて成立することを実感した。しかしそれは、都市の大病院では可能であっても、地域の小病院では必ずしも容易ではないことを院外研修(診療所・地域病院研修)で感じる場面が多かったように思う。そこで、地域医療に関して、その現状を以下に考察していきたい。
 本県を含め、地域医療充実化の妨げとして、医師の絶対数の不足や都市への医師の集中、また診療科の偏在化が叫ばれて久しい。現在これらに対処すべく、医学部における地域枠の設置や大学からの医師の派遣等、医師にスポットを当てた改善策が多数示され、政策として実行されている。これら医師の側の問題の解決は非常に重要で、まず考慮・解決されるべき問題であることに誰もが異論はないと考えられ、実際その通りであろう。しかし仮にそれが達成できたとしても、地域医療充実化は実現不可能と言わざるを得ない。というのも、同じことがコメディカル(診療放射線技師・理学療法士・作業療法士・薬剤師・看護師)に対して当てはまるにも関わらず、その解決策が十分に見出されておらず、よって政策としても不十分というのが現状だからである。地域医療政策を考える上で、「人・もの・金」の3つを考慮すると思われるが、「人」の部分で、医師に偏った政策のみでは、医師の問題は解決できても、コメディカルの問題は解決できない。そこで、私は地域医療における「人」の部分において、コメディカルの不足・偏在化の改善策を医師会に提言させていただきたい。それでは、コメディカルの不足・偏在化の改善策とは具体的には何なのか、そしてなぜそれが必要とされるのか。以下に私見を述べることにする。
 まず、コメディカルの不足・偏在化の改善策について述べる。各コメディカルが所属する学会と連携し、新潟県内におけるコメディカルの医療機関における分布を調査する。すると、どの医療機関に集中し、あるいは不足しているかが把握できる。それを基に、コメディカルの不足している地域病院へ医師会より働きかけを行い、採用枠を新設し、コメディカルの中で不足している職種を派遣する。この時、具体的に誰が派遣されるかという問題が生じる。人物が特定の一人に固定されると不平等が生じるため、年単位で交代し、ローテーションを組むという方式が、一番公平性が担保される方法と考える。
 以上の方法が、コメディカルの地域への不足・偏在化を改善させる方法と考えるが、その結果として得られるものは何だろうか。日中の一般外来・病棟業務の効率化はまず大きな利点だろう。昨今進められている「働き方改革」を鑑みても、業務の効率化で日中の仕事を早く切りあげることができれば、過重労働を予防することができる。一方で、昼夜問わず救急診療の充実にも大きく寄与する点が大きいと言えるだろう。というのも、救急診療では、数多くの患者が救急外来を受診するため、特に夜間スタッフが減少する中において、十分なコメディカルなくして成立し得ないからである。具体的には採血・点滴・検査室への患者搬送は看護師あってのものであり、またレントゲン・CT・MRIといった放射線検査は、診療放射線技師なくしては一切施行できない。夜間診療放射線技師や看護師の不足のため、救急医療を縮小せざるを得ない地域の小病院もきっと存在するはずである。このように、どんなに地域への医師不足・診療科の偏在が改善されても、実際の現場レベルで医療を考えてみると、コメディカルの充足なくして成立しえないということが容易に理解できる。
 以上、本県における地域医療充実化の妨げとして、地域医療における「人」の部分において、コメディカル側の問題点とその改善策、その必要性に関して私見を述べさせていただいた。ただし、この議論の限界点としては、現段階でコメディカルの絶対数そのものが十分と言えないこと、及び各コメディカル所属の学会と医師会の連携体制が十分とれていないこと、の2点が挙げられる。前者への介入は成り手の数の問題であり、介入はかなり難しいと思われる。しかし、後者に関しては、地域医療構想を考える上で、学会同士の新たなネットワークの構築は十分に可能と思われるため、協力するための分科会を立ち上げるなどの工夫が今後要求されてくることになるのではないだろうか。もしそうなれば、医師とコメディカル、双方の問題点の解決を同時に進めることができるようになり、地域医療充実化に大きく貢献できるようになるだろう。この点に関し、医師会は、地域医療を守るリーダーとしての活動団体であることを望みたい。

目次に戻る


蛍の瓦版〜その57   理事 児玉伸子(こしじ医院)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19感染症)

 1.初めに

 令和元年11月に中国の武漢にて新型肺炎として報告された新型コロナウイルス(COVID-19)による感染症は、瞬く間に世界中に拡散し、現在も多くの方々の命を奪っています。今回の瓦版では、COVID-19感染症に関連する法律についてご紹介します。

 2.感染症予防法

 人類の脅威となりうる感染症に対し、迅速かつ的確に対処することを目標に定められた法律が、“感染症予防法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に対する法律)”です。わが国の感染症に関する法律は、明治30年に制定された“伝染病予防法”が長らくその中心でした。平成10年にそれまでの“伝染病予防法”“性病予防法”“エイズ予防法”の3法を統合し、“感染症予防法”が制定されました。この法律では、患者等の人権を尊重しつつ良質かつ適切な医療の提供を確保することを目標とし、成立後も改定を重ねています。平成12年のSARS(重症急性呼吸器症候群)発生後には、世界的大流行にも対応すべく改定されました。平成19年には結核予防法が統合され、その後も対象疾患に新型インフルエンザA(H1N1)2009やMERS(中東呼吸器症候群)さらに薬剤耐性菌等が追加されてきました。
 感染症はその感染力や罹患した場合の重篤性に拠って、既知のものは1〜5類の感染症に指定され、未知のもの3種類を加え計8種に分類されています。1類感染症にはエボラ等の出血熱や痘瘡・ペストが含まれ、2類には急性灰白髄炎・結核・ジフテリアおよびSARSやMERSが含まれています。1類と2類感染症は、感染症特定医療機関にて扱われますが、新潟県では1・2類感染症を扱う第一種感染症指定医療機関は新潟市民病院だけです。2類感染症を扱う第二種感染症指定医療機関は県内に11箇所あり、長岡市内では長岡赤十字病院がその指定を受けています。

 3.COVID-19

 2月1日にCOVID-19は感染症予防法における“指定感染症”の指定を受け、SARSやMERSと同様に2類感染症に準じる扱いとなりました。またその病原体は第4種病原体に指定され所持や保管譲渡が規制の対象となり、検疫法においても検疫感染症の対象として検疫も強化されています。
 今回の指定によって、COVID-19の患者さんは原則として公費での入院隔離措置の対象となり、これは擬似症患者や無症状病原体保有者にも適応されます。また医師の報告も義務化し接触者調査も法律に基づいて行われ、疾病の感染状況等の把握が容易となります。一方、原則として感染症特定医療機関にて扱われることとなり、特定医療機関の負担が大きくなり過ぎ、多数の罹患者への対応は困難となります。

 4.新型インフルエンザ等対策特別措置法

 新型インフルエンザ等対策特別措置法は、平成21年に流行したいわゆる新型インフルエンザへの対応の混乱を教訓に作成されました。通常の医療体制の延長では、致死率の高い新型インフルエンザ等の世界的な流行時には対応できないことが改めて認識されました。そこで非常事態への対応を目的に、大規模災害時の災害対策基本法やテロリズム等への対処を定めた対策法に準じて、新型インフルエンザ等対策特別措置法が制定されました。平成29年3月の瓦版でもご紹介しておりますが、長岡保健所管内でも緊急時の医療協力について管内の医療関係者による意見交換が定期的に行われていました。
 3月13日にCOVID-19は新型インフルエンザ等対策特別措置法の対象に指定され、現在は“新型コロナ特措法”とも呼ばれています。この法令に基づいて今回の緊急事態宣言が出され、政府は国民に対し感染予防にために必要な外出の自粛等の行動制限を要請できます。またここでは医療関係者等への保障や、知事の権限および費用負担についても明確にされています。

 5.最後に

 COVID-19を廻る状況は刻々変化しており、ホテル等での隔離も始まり、治癒の要件も先日変更されました。費用に関してもPCR(核酸増幅法)検査に保険診療が適応されることとなり、公費負担の原則も変わってゆくと思われます。
 現在中越地区には人工呼吸器50台とECMO(体外式膜型人工肺)6台が存在しますが、実際にはマンパワーの確保等から稼動可能な台数はその1/3程度です。
 2月1日以来、COVID-19が指定感染症に指定され、2月29日に新潟県における感染者が発生し、保健所や行政の担当者及び最前線で直接対応されている病院のスタッフの方々は大変な業務を遂行されています。長岡市医師会でも会長以下担当役員や事務局は日々奮闘しております。限られた医療資源にて、このような未知の非常事態に対応してゆくために、皆様方のご協力をよろしくお願いします。

 目次に戻る


巻末エッセイ〜新型コロナ肺炎と温泉湯治 福本一朗(長岡保養園)

 武漢市から始まった新型コロナウイルス肺炎は世界中に拡散し、特に一帯一路の中国と交流を深めているイタリアに22万人を超える感染者と3万人を超える死者という欧州最大の悲劇をもたらしました。古代ローマ帝国時代には上下水道や公衆トイレなどの公衆衛生施設の完備によって、世界に冠たる健康寿命都市であったのに、先進諸国第2位の死亡率13.8%(cf.日本3.6%、ドイツ4.3%、フランス16.8%)は一体どうした事でしょう。その原因として40万人を超す合法・違法の中国人移住者、コロナ肺炎死亡率が特に高い高齢者が世界第2位と多いこと、国家経済悪化による医療崩壊、マスクを使わず手洗いや嗽もしない反面、誰とでも気軽にハグやキスなど濃厚接触挨拶風習の存在などが挙げられています。しかし現代日本にタイムスリップした古代ローマ浴場設計技士“ルシウス”が日本の風呂文化に啓発されて日本風の温泉保養施設を作るという漫画「テルマエ・ロマエ」の作者である山崎マリさんは、中世の暗黒時代を経てイタリアから温泉入浴習慣が廃れてしまったことが不健康の原因とおっしゃっておられます。確かに体表についた病原体を洗い流す入浴は、接触感染と飛沫感染のリスクを下げるでしょうし、浴室の高温多湿はウィルスを不活化するだけでなく、体温を上げる事で免疫力を高めるとされています。ところで物理的に湯に体を沈めると成人で約1200sの静水圧が体表面全体にかかり水圧・浮力・温熱作用を生じますが、これは末梢に貯留した血液やリンパ液を心臓に戻し四肢の浮腫と鬱血を改善する効果があります。また人体比重は1.036なので入浴中に体重が約9分の1に減少し、筋肉の緊張を除去するのに役立つとともに脂肪除去効果もあるといわれています。このように摂氏40度位のお湯に10分ほど浸かると、温泉熱が皮膚の温点を刺激して脳から皮膚血管拡張指令が出ることにより血液循環が盛んになり、身体の芯までぽかぽかと暖まってきます。冬でも入浴後4〜5時間はこの温熱効果は続くため温泉に頻繁に入る習慣を持つ人は風邪をひきにくい事もよく知られています。さらに身体が暖まると汗腺からの発汗が亢進するとともに、脂肪腺からの皮脂分泌も盛んになるため、毛穴に詰まった汚れや体内の老廃物が排出されて、皮膚の淨化作用が生じるので、越後に雪肌美人が多いという説もうなずけます。また精神に対する作用も決して無視できません。機械文明に適合せねばならない現代人の精神的ストレスは、心が体に害をなす神経性胃潰瘍などの心身症を例にひくまでもなく、心と体の健康を脅かしていますが、温泉場に赴くことはささやかな転地リラックス療法ともなり、日常離れていた自然と触れ合えることにより幸福感で満たされます。緊急事態宣言・外出自粛のパンデミックの時にこそ、温泉の効用を思い出し越後でゆっくりと湯治を楽しみたいと思いませんか?「深くこの生を愛すべし(会津八一学規)」

「皇帝も庶民も裸で付き合えた古代ローマ浴場」

「現代のハンガリー公衆温泉」

 目次に戻る