長岡市医師会たより No.514 2023.1


もくじ

 表紙絵 「富士新春(河口湖にて)」 丸岡稔(丸岡医院)
 「新年を迎えて」会長 草間昭夫(草間医院) 
 「新春を詠む」 
 「なぜ、尿中アルブミンを測定するのか」 木正人(木内科クリニック)
 「長岡市のCKD対策について」 石黒あゆみ(長岡市健康課)
 「愛車遍歴」 須庸平(須メンタルクリニック)
 「蛍の瓦版〜その76」 理事 児玉伸子(こしじ医院)
 「巻末エッセイ〜土偶と埴輪〜永遠の一瞬(その2)」 福本一朗(長岡保養園)



「富士新春(河口湖にて)」  丸岡 稔(丸岡医院)


新年を迎えて  会長 草間昭夫(草間医院)

 明けましておめでとうございます。昨年12月としては記録的な大雪となり、雪になれている当地でも大変な渋滞となりました。併せてCovid19感染症も第8波のさなかにあり、会員の先生方におかれましては例年にない忙しさの中での年末であったと思います。診療所では職員、職員家族の感染の中、発熱外来、ワクチン対応とご苦労いただき、病院や高齢者施設でもクラスターが生じたにもかかわらず、特に病院の先生方におかれましては日々の臨床に加え、紹介患者、県下の感染者の救急対応をしていただき感謝に耐えません。重症者、死亡者は少ないもののまだ対コロナ感染症との戦いを緊張感を持って続けなければならないと考えております。県内で最初に稼働したPCRセンターもその責務を終えたところですが、12月19日からは入院待機ステーションの場所を移転して再度対応することとなりました。自宅療養担当も継続して対応していただき感謝するとともに、今後も従来の業務に加えご協力をお願いいたします。
 国は、特殊な新薬の処方システム、感染対策向上加算、オンライン資格確認、レセプトの返戻を含めた全電子申請対応、リフィル処方、電子処方箋と私どもの通常の保険診療にデジタル化を義務化しようとしています。対応できない者は置いて行くよと言わんばかりですが、長岡市医師会はなんとか会員全体でこの波を乗り越えたいと考えています。当地で運用しているフェニックスネットに加え、PHR(Personal Health Record)が全国民に普及する礎となる可能性もあります。地域医療構想、地域包括医療、医師の働き方改革、医師の偏在対策と超えなければならない問題の解決につながっていくと考えています。中越地域一丸となって乗り越えていきたいと思います。
 長岡市内の研修医は年々増えていますが、地域枠の学生の入学が70人に及びます。卒後地元で研修する研修医に対して県外の地域に負けない研修を提供しなくてはならないと思っています。それが当地域を研修の地として、就業の地として選択してもらうことにつながると考えるからです。以前にも増して会員の先生方には後輩のご指導に時間を割いていただきたくお願い申し上げます。
 話は変わりますが、昨年10月の長岡市米百俵祭りで長岡の偉人として長谷川泰役で参加しました。新潟日報でも取材していただきましたが、市民の皆様にもっと知っていただけるように顕彰していきたいと思います。また、コロナのさなかパルスオキシメータは無くてはならないツールでしたが、この発明者が青柳卓夫博士で長岡高校、新潟大学工学部出身だということは地元ではあまり有名ではありませんが、世界的にはノーベル賞の候補にも挙がったと言われている方です。博士を地元の誇りとしてたたえていきたいと考えています。
 2年間中止であった長岡祭りの花火大会や音楽フェスがいろいろな規制下ではありましたが執り行われました。コロナ感染にどのような影響があったのか検証されていませんが、お盆の後には地元の高齢者に感染が増加した印象があり、子供のワクチン接種が進まない中、家庭内での感染が広がったのかもしれません。約3年にわたり、新規に開業されたり、新たに病院にお勤めされた先生方と顔を合わせることがなかったのですが、節度ある中で医師会の飲食や旅行がコロナ以前の様に開催でき、皆様と楽しい時を過ごせるのを楽しみにしております。
 本年も宜しくご指導お願い申し上げます。

 

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新春を詠む

去りし年偲びつ今年期する朝  江部達夫

嚔して涙は出るはおほわらは  石川 忍

あらたまの雪の軽きを白兎   郡司哲己

 

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なぜ、尿中アルブミンを測定するのか  木正人(木内科クリニック)

 現在我が国で人工透析を受けている患者数は約33万人で、その内の40・7%が糖尿病と言われています(図1)。それでは長岡市はどうでしょう、令和3年度における新規人工透析導入患者数は80人、その内約60%が糖尿病と言われています。
 現在国、県、長岡市は糖尿病性腎症重症化予防プログラムを掲げ、新規人工透析導入患者数を減らそうと必死に取り組んでいます。その切り札が「尿中アルブミン測定」です。尿中アルブミン測定の中でも微量アルブミンが重要で、糖尿病性早期腎症や虚血性心疾患の指標になると言われていますが、健康保険適用は糖尿病性早期腎症の場合のみですので注意が必要です。尿中アルブミン測定は蛋白尿が− ± +の場合に行います。当院の実測値では(−)は15.7〜195.9(±)は8.5〜410.1(+)は48.6〜824.6mg/gCr でした。尿試験紙法で蛋白(−)でも微量アルブミン尿のことがありますので是非測定をお願い致します。
 それでは、尿中アルブミンを測定すると何がわかるのでしょう。
 糖尿病性腎症の進展度が分かります(図2)。腎症1期:正常アルブニン尿(<30mg/gCr)腎症2期:微量アルブミン尿(30〜299mg/gCr)腎症3期:顕性アルブミン尿(≧300mg/gCr)腎症4期:アルブミン・蛋白尿を問わずeGFR<30ml/分/1.73m2 腎症5期:人工透析
 上記の中で内科医が外来で1期に戻せるのは2期:微量アルブミン尿まで、必死に介入しても3期までです。さらに微量アルブミン尿を放置した場合、10〜15年後には透析療法が始まると言われています(図3)。これは何としても回避したいものです。
 微量アルブミン尿を発見したら治療はどうしたらよいのでしょう。具体的には食事療法:糖尿病食(25〜30kcal/kg)+蛋白の過剰摂取を控える+塩分6g以下これを管理栄養士の派遣事業を使って管理栄養士に委託する。血糖コントロール目標はHbA1c<7.0%できれば<6.5%、内服薬は慢性腎臓病に効果のあるSGLT2阻害薬やGLP1受容体作動薬を積極的に投与する。血圧は診察室で収縮期130未満(自宅で125未満)内服はARB,Ca拮抗薬を中心に最大量まで投与し、それでも目標達成できない場合は、最近のミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の投与も試みる。
 では、効果の判定について、尿中アルブミンは3か月に1回しか測定することが健康保険では認められていませんので、正常アルブミン尿の場合は1年に1回、微量アルブミン尿の場合は3〜6ケ月に1回の測定で十分と思います。
 次に、検査の提出方法は電子カルテや検査依頼書の尿中アルブミンの項目をチェックし、随時尿で提出するだけで尿中アルブミン値÷尿中クレアチニン値×100=尿中アルブミンmg/gCr 尿クレアチニン補正した結果が出てきます。具体的には日常検体を提出している臨床検査センターにご確認ください。これで濃縮尿や希釈尿の影響を受けずに判定できます。
 最後に、保険病名について、「糖尿病または糖尿病早期腎症患者であって微量アルブミン尿を疑うもの(糖尿病性腎症第1期又は2期)」と明記されています。具体的には糖尿病、糖尿病早期腎症、糖尿病性腎症第1期、糖尿病性腎症第2期ということになります。面倒ですので、私はほとんど「糖尿病」とだけしか記載していませんが全く査定されていません。
 尿中アルブミンを測定し糖尿病性腎症を早期に発見し治療することで、10年後の長岡市の新規透析導入患者数を半分にしたいものです。

図1

図2

図3

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長岡市のCKD対策について  石黒あゆみ(長岡市福祉保健部健康課)

 日頃より長岡市の保健事業へご理解ご協力いただき大変ありがとうございます。
 長岡市では健康寿命の延伸及び社会保障費の増加抑制のため、人工透析新規導入者の減少を目指しCKD対策を実施しております。市の現状や対策の成果、課題についてこの場をお借りしてお伝えします。

 1.長岡市の現状

 長岡市の人工透析患者数はおよそ600人で年々増加傾向にあります。新規患者数は減少傾向にありましたが、令和3年度は80名と大きく増加しました。
 人工透析患者のうち市国保加入者は約200人で、そのうちおよそ6割に糖尿病がみられます。令和3年度の特定健診結果からはHbA1c8%以上のコントロール不良や肥満の項目に悪化がみられ、コロナ禍での受診控えや生活の変化が影響していることもうかがえます。

 2.長岡市の取り組み

 ?CKD(慢性腎臓病)検査受診勧奨事業

 平成27年度よりCKD(慢性腎臓病)検査受診勧奨事業を開始しています。健診受診者で以下の基準に該当した方へ市から通知を送付し、かかりつけの医療機関等で再検査を受けていただき、再度同基準に該当した場合は腎臓内科との連携した診療を推奨しています。
 令和3年度の実績は、健診受診者28,556人中2,865人が上記基準に該当し、そのうち再検査から腎臓内科へ紹介された方は75人でした。開業医の先生から「80代、90代の方や紹介済みの人にも通知が出るの?」というお声をいただきました。後期高齢者については個別性が高いことから年齢のみによる判断が難しいと考えております。また紹介済みの方を除外することが現状のシステムでは困難となっています。先生方にはお手数をおかけしてしまい大変申し訳ありませんが、引続き総合的に再検査や腎臓内科紹介の必要性をご判断いただき、市へ結果の返信をお願いいたします。

 ?糖尿病性腎症重症化予防プログラム

 糖尿病の重症化による人工透析への移行を抑制する目的で、令和2年度から開始しています。特定健診から「糖尿病型かつ尿蛋白±以上またはeGFR45未満」又はレセプトから「糖尿病初診から10年以上経過又は糖尿病性腎症又は網膜症の診断あり」に該当する方を対象として、市から通知を送付し、未治療者へは市が受診勧奨を行います。
 通知を持って受診された方に対し尿アルブミン等の必要な再検査を実施していただき、HbA1c8%以上又は糖尿病性腎症3期(尿アルブミン300r/gre以上)の場合、糖尿病専門医師と、eGFR45ml/min/1.73u未満の場合、腎臓内科との連携した診療、及び専門職による保健指導の実施(市事業への紹介含む)を推奨しています。
 令和3年度実績としまして、市国保加入者(40−74歳)37,764人のうち、プログラム該当1,053人、専門医療機関への新規紹介件数は11人、市の保健指導事業を利用した方は51人でした。市の保健指導を受けた方の60%以上に、翌年度健診のHbA1cの改善や行動変容の継続がみられています。ぜひ多くの方へご紹介ください。

 3.課題とお願い

 これらの事業から一定数の病診連携や保健指導につながり、一部では効果が得られていると考えますが、新規透析導入数の減少に向けてさらに取り組みを強化していく必要があります。
 市国保加入の人工透析患者のうち約9割が過去に特定健診を受けていないという実態があります。長岡市の健診受診率は令和3年度37・8%で、国が示す目標値60%を大きく下回っています。健診は安価に幅広い項目の検査ができることや市の事業を活用していただけること、ご自分の検査値を振返る機会となりご本人の意識付けになるといったメリットがあります。治療中の患者さんにもぜひ健診をお勧めください。
 また、市では糖尿病に関する正しい知識の普及啓発のため、市ホームページに動画を掲載しており、今回長岡西病院福居和人先生の御協力の下、新たにアニメーションを用いた解説動画を追加しました。患者さん向けの周知用カードを作成しましたので、ぜひ患者さんにお勧めください。

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愛車遍歴  須庸平(須メンタルクリニック)

 先日、新車購入の契約をしました。そういえば、今までどんな車に乗っていたのか記憶が曖昧だなと思ったので、車人生について振り返ってみたいと思います。
 大学1年生の夏休みに免許を取得し、知り合いの先輩から買った古いミニクーパーが初めての車でした。木製パーツのかっこいい内装で、塗装は蛍光グリーンの珍しい車でした。40万円だと言われ、年式や走行距離も不明でしたが、一目ぼれして借金をして購入しました。得意げに友人や女性を乗せたものでしたが、楽しいのは一時でした。半年経ったころ、クラッチを踏んでいるのにゆっくり前進するようになってしまいました。修理をするにもお金はなく、遂にはシフトレバーがギアに入らなくなって乗れなくなりました。高い授業料でした。
 2台目は母から貰った薄い水色の2代目マーチでした。ミニクーパーと比べればエンジンの調子は良いし、冷暖房の効きも十分でパワーウインドもあり快適でした。しかしまたしても数か月でお別れとなりました。新潟市の旧市役所前交差点で追突してしまい廃車になったのです。私が古町方面から直進で交差点に進入しようとしたところ、右折車線から急に車が前に入ってきて、交差点内で急停車したのです。ブレーキが間に合わず追突してしまいました。相手は出張中のレンタカーで、車線や信号がわからず混乱したようでした。警察は同情してくれましたが、過失割合は当然変わりませんでした。大けがはしませんでしたが、おでこがハンドルにぶつかって腫れあがってしまい、しばらく怒っているような見た目になりました。
 3台目は大学3年の頃で、紺色の6代目三菱ミニカです。バイトのために車が必要となり、ふと入った中古車販売店で18万円だったので即決しました。今考えると安く買えた時代だなと思います。走行距離が10万q程で、パワーウインドはなかったですが、故障はしないし燃費は良いし、大学時代の良い相棒でした。今の妻と付き合うようになって、一緒に青森まで連れて行ってもらいました。
 走行距離が16万qを超えたため、大学6年の頃に祖父の乗らなくなった紺色の初代カリーナを受け継いだのが4台目です。乗り心地は良く、やはり普通車なので軽と比較して高速走行時の静音性が段違いだと感じました。そうは言っても長年乗られていた車で、気づくと物凄い音を出すようになり、見てみるとマフラーが無くなっていました。腐食が進み、どこかで外れてしまったようでした。周囲には迷惑だったと思いますが、しばらく乗って、車検前に廃車にしました。
 5台目は研修医になる時に、母の知人から譲り受けた紺色の4代目ゴルフでした。走行距離は14万qでしたが、乗りやすい車でした。大した思い出はありませんが、4年程乗って、最後は高速走行中にパワーウインドが壊れたのか急に窓が落ちて上がらなくなりびっくりしました。
 精神科入局して2年経ち、新発田病院勤務することとなって、古い付き合いの先輩から6台目の車を購入しました。商用車のプロボックスで少しヤンチャにカスタムされており、頭が上がらない先輩で圧力に抗えずの買い物でした。その見た目のせいで、勤務帰りに乗ろうとしたら、ヤンチャな入院患者さんとその友人達が私の車を見ていました。怖かったのですが、私も関わった患者さんだったので談笑だけで済みました。見た目はさておき、故障はしないしサイズの割に荷物はたくさん入るし、便利な良い車でした。
 7台目は8年前に小出病院時代に購入した、現在乗っている白のジープラングラーです。給料も稼げるようになり、初めての新車購入でした。オフロードはしないし、アウトドアもしない私ですが、見た目が好きなので購入しました。揺れるし雨漏りするし、妻には乗りづらいと不評ですが、8年経っても飽きません。家族での移動はどこに行くにも車で、羽田空港にも、関西旅行にも、時には妻の実家の福岡にも行ったことがあり、気が付くと16万q近く乗りました。
 次なる8台目もラングラーの新型にしたいと昨年から検討を開始しました。円安や最近の安全装備のために、旧型購入時と比べて値段が2倍近くになっていました。ディーラーで相談しましたが、値引きは一切ありません。更に半導体不足などで納期は半年〜1年はかかるだろうと言われました。そうは言っても、惚れた側は弱く、勢いに任せて購入申し込みをしました。今から楽しみで、気が付くとインスタグラムでチェックしてしまいます。
 原稿を書くために振り返ってみましたが、忘れていたエピソードが思い出され楽しい時間でした。皆様も少し振り返ってみるのも如何でしょうか。

 

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蛍の瓦版〜その76 理事 児玉伸子(こしじ医院)

 1.フェニックスネット

 長岡市医師会は、医療と看護及び介護の多職種間の情報共有を目的に、長岡市を含むオール長岡によって構成されたフェニックス協議会を通して、フェニックスネット≠フ整備拡充を行ってきました。
 小千谷市からの参加も含め、12月現在の参加機関は267件あり、医科59・歯科10・訪問看護21・薬局46・介護関連131となりました。登録数は3万余名あり、そのうち個人情報に関する同意書を提出された方は1万余人です。新型コロナウイルス感染症関連の診療等でお忙しいとは存じますが、登録へのご協力をお願いいたします。患者さんご自身で長岡市のホームページから登録して頂くことも可能です。

 2.長岡版“クラウド型EHR(Electric Health Record 個人健康記録)”

 平成29年4月号と10月号や平成30年6月号の瓦版でもご紹介しましたように、長岡市医師会は総務省が募集したクラウド型EHR高度化補助事業≠ノ応募して選ばれ、約6千4百万円の補助金が交付されました。そこで従来のフェニックスネット≠フ機能に加え、クラウド上で医療情報の共有を行ない、災害時の更なる対応を目指しておりました。
 しかし、当初の想定以上に技術的な問題点が出現し、更なる経費が必要となる等継続に係る経済面等の諸事情を勘案し、今回のクラウド型EHRを利用した個人データの共有構想は中断することとなりました。全国的に同様の先進事業をみても、いずれもシステムの維持費の工面が問題となり十分な活用が行われていないようです。
 厚労省では従来の紙媒体の健康保険証に代わって、マイナンバーカードを保険証として活用し、カードを介しての医療情報の共有化を目論んでいます。当初は保険情報と処方薬に係る情報だけですが、更なる拡充を目指し、日本医師会も推奨しています。カードリーダーの設置等で疑問や問題が生じる場合は、医師会までご一報ください。なお今年の4月から医療機関での対応が義務化されますが、昨年12月末のマイナンバーカードの申請数は全国的には約66%で、既に取得された方は57%でした。

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巻末エッセイ〜土偶と埴輪−永遠の一瞬(その2) 福本一朗

 長岡市関原にある馬高遺跡は、民間の考古学者、近藤勘治郎・篤三郎父子により1935年に発掘された縄文中期遺跡ですが、有名な火炎型土器や馬高美人土偶をはじめとして、打製・磨製石斧,石鏃,石匙,石槍,石皿,凹石,石棒,三角形土版,三角?土製品,土製滑車形耳飾などを数多く出土し、馬高縄文館に展示されています(Fig. 1)。このうち「土偶」は主として東日本に発掘されますが(Fig. 2)、これに対して西日本の古墳に多く出土するのが「埴輪」です(Fig. 3)。ときに「縄文の土偶」、「弥生の埴輪」と並び称されることがありますが、実は弥生時代には土偶や埴輪の様な立体的な土製人形はほとんどありません。「土偶」は1万5000年前から紀元前400年に渡った縄文時代に、自然の脅威に対し安産や豊穣を祈って一般庶民が身近に備えていたものですが、「埴輪」は弥生時代から数百年後の古墳時代(4〜7世紀)に権力者の弔いと墓域区別のために作られたもので、その間には800年ほどの時間的隔たりがあります。しかしその両者はともに日本人の祖先が作り上げた人物像であり、「永遠」への願いが込められているという点では共通しています。平均寿命は、縄文人が15才、古墳時代人が25才前後とされていますが、特に厳しく不安定な狩猟採集生活に依存していた縄文時代人にとって、自分の命の儚さから子孫繁栄を願う気持ちは大きかったでしょう。これに対して農耕による富の蓄積を基に、庶民よりも豊かで健康的な生涯を送ってきた権力者は、巨大な古墳を造営して死後に永遠の命を望む様になったと考えられます。そして東日本に多い縄文文化は火炎型土器に見られる様に、動的でエネルギーに溢れ刹那の生を精一杯謳歌しているのに対して、西日本に多い古墳文化は静的で上品にして来世への期待に満ちている様に思えます。これは子孫のために一所懸命=A名を惜しんで生死をかけて刹那の美学を求めた東国武士と、厭離穢土・極楽浄土を願い死後に永遠の平安を求めた平安貴族の生き方の違いにつながって行くと思うのは筆者だけでしょうか?

Fig. 1 長岡市馬高出土火炎型土器と馬高美人土偶(縄文中期)

Fig. 1 長岡市馬高出土火炎型土器と馬高美人土偶(縄文中期)

Fig. 2 茅野市棚畑遺跡出土縄文ビーナス(縄文中期)

Fig. 3 太田市飯塚町出武装男子立像埴輪(6世紀国宝)と埴輪群

Fig. 3 太田市飯塚町出武装男子立像埴輪(6世紀国宝)と埴輪群

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